主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】臨床場面では、結帯動作制限の改善に難渋することも少なくなく、以下の症例においてその改善する理学療法プログラムを探った。
【方法】筆者の文献考察から、以下の患者(腱板断裂術後、90°外転位からの他動的内旋運動で15°を超えると肩甲骨下角の浮き上がりが著明。指推間(C7)距離は、術側は48cm、非術側は7cm)に、以下の3種類の治療を、シングルケースデザイン・交替操作型実験計画-alternative treatment designを用い、治療前後における90°外転位からの他動的内旋角度を比較した。A肩水平内転を肩甲上腕関節のみで行う、B烏口上腕靱帯および後下関節上腕靱帯の伸張、C上腕骨頭を関節窩に適合させる。研究は前記の治療を順に独立変数ABCとして、従属変数は90°外転位からの他動的内旋運動で肩甲骨の下角の浮き上がりを認める角度とした。従属変数の測定間隔は、治療終了直後とし、治療開始時間、各治療内容、従属変数測定方法も統一し、セッション1は独立変数ABC、セッション2は独立変数BAC、セッション3は独立変数BCAとし、独立変数ごとに介入前後値を比較し、独立変数ごとにセッション間比較を行った。なお、独立変数の治療期間は各1週とした。
【結果】セッション1、2、3全てにおいて、セッション間の差は5°であり、治療方法による差を認めなかった。術後5ヶ月には、90°外転位からの他動的内旋角度が60°を超えても肩甲骨の下角の突出が消失し、指推間(C7)距離も、術側は12cm、非術側は7cmとなった。
【考察】今回は選択した方法での治療効果に差を認めなかった。それは、病態の本質であるアライメントの乱れに対して的確なプログラムであったためと考えている。独立変数の選択には、異論があるかも知れないが、2次変数の統制は最大限図っており、従属変数の変化は独立変数によるものと考えている。研究で選択したデザインは、撤回の時期がなく倫理上の欠点を解決する方法でもあり、また、複数の独立変数をランダムに繰り返すことによって各独立変数の影響を除去したうえで、同一の従属変数の変化を見たい場合に有用である(石倉)ことから、妥当であると考えている。
【まとめ】結帯動作を改善するために、A:水平内転運動を肩甲上腕関節のみで行う、B:烏口上腕靱帯および後下関節上腕靱帯の伸張、C:上腕骨頭を関節窩に適合、のうちのどの治療法が適しているのかを明らかにしようと計画した。ABC間において、治療効果に差を認めなかった。