理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1367
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骨・関節系理学療法
関節拘縮予防のための関節運動負荷条件の検討
*龍田 尚美秋山 純一野中 紘士速水 明日香中嶋 正明
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抄録

【はじめに】
関節拘縮は,関節の不動状態や関節運動量の低下によって引き起こされる。一般に関節拘縮は,通常の関節可動域が自動的にも他動的にも制限された状態と定義される。関節の可動域制限は日常生活や労働を制約し,また介護などの多面にわたって大きな負担の増加をもたらす。一度生じた関節拘縮の改善は困難であることから,その予防は非常に重要である。関節拘縮の予防には主に関節可動域運動が用いられており,関節拘縮の予防には「1日に1度,1度に3~5回の全可動域に及ぶ関節可動域運動を週に3日または毎日行うこと」が必要と言われている。しかし,この根拠を示す科学的研究報告は見あたらない。本研究は,1日に1度,1度に5回の関節可動域運動を週に5日行うことで,関節不動による関節拘縮の発生を予防することができるのかを動物を用いて実験的に検証した。
【方法】
実験動物には12週齢Wistar系雄性ラット12匹(体重330~380g)を用いた。ラットの左膝関節を独自に考案した膝関節創外固定法(第40回日本理学療法学術大会にて報告)によって不動の状態とした。ラットは,無作為に1)関節固定群,2)関節可動域運動負荷群に分けられた。ラットは1ケージ内に1匹で飼育し,水、餌は自由摂取とした。関節可動域運動負荷群における関節可動域運動は,1日に1度,1度に5回の全可動域にわたる関節可動域運動を週に5日の条件で,固定処置後1週間経過時点から実施された。関節可動域運動は,麻酔下にて実施され,ラット膝関節屈曲伸展のそれぞれの方向に0.049Nmの最大トルク抵抗がかかるところまでとし,0.25Hzの頻度で負荷された。関節固定から5週間後,麻酔下にてラット膝関節の関節可動域を測定した。関節可動域の測定は,ラットの膝関節に0.049Nmのトルク負荷にて最大屈曲,最大伸展させた状態をデジタルカメラで撮影し,その画像をパーソナルコンピュータに取りこみ,Scion imageを用いて膝関節の角度を測定した.統計処理には,関節可動域の比較にはt検定を用いた。P<0.05をもって有意差ありとした。
【結果】
膝関節可動域は,関節固定群が固定前118.9±11.9°(mean±SD), 5週間後17.7±6.6°,関節可動域運動負荷群が固定前116.4±6.6°,5週間後42.8±4.3°であった。
【考察】
本研究の結果から,1日に1度,1度に5回の全可動域に及ぶ関節可動域運動を週に5日行う条件では関節拘縮の発生を予防できないことが明らかとなった。今回の実験では齧歯類であるラットを用いており,そのままヒトでの評価に適用することはできないが,同じ哺乳類としてヒトでも同様の結果が得られるものと考えられる。今後,関節不動による関節拘縮発生を予防するための至適関節可動域運動負荷条件を明らかにすべく様々な関節可動域運動負荷条件にて検証していきたい。


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© 2007 日本理学療法士協会
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