主催: 社団法人日本理学療法士協会
【目的】
電気治療の中で超音波治療は、臨床的に偽関節や遷延治癒骨折に対し広く応用されている。しかし、低周波を使用した骨折治癒の有効性を検討した詳細な報告はみられない。電気療法がどのようにして骨癒合を促進させるのか、そのメカニズムはまだ完全に解明されておらず、電気刺激による骨再生促進のメカニズムや、低周波の骨治療への応用効果が確認されれば、今後の骨折の治療に大きく貢献できると考え本検討を行った。
【方法】
動物実験は、Wistar系16週齢の雌ラットを26匹使用し、脛骨を対象骨として骨欠損モデルを作成した。無作為に2群に分け、骨再生を遅延させ治癒の比較を容易にするため、一方の群は鼡径部の大腿動静脈を結紮した。さらに各群を2群に分け、低周波治療を行う群 (低周波群: n=7、阻血低周波群: n=6)と、無処置群 (CONT群: n=8、阻血CONT群: n=5)に分けて比較検討した。骨欠損は、両側脛骨の外側面に1.3mmの太さのドリルにより長軸方向に5mm、深さ1mmの穴をあけ作成した。結紮処理は、鼡径部を切開し大腿動静脈を露出し、3箇所を縫合糸により結紮した。処置翌日から10V、2A、60Hzの距形波で低周波治療を1日に10分間、週5回行った。両側の脛骨、静脈血採取をした。血清中のTGF-β1、オステオカルシン濃度への影響はELISA法にて測定した。
【結果】
海綿骨・緻密骨の形成は、低周波群>CONT群>阻血低周波群>阻血CONT群の順に多くなっており、特に低周波群で顕著であった。原始髄腔の形成はCONT群では緩やかに増加したのに対して、低周波群はCONT群より速やかに増加していた。骨芽細胞は、CONT群・低周波群で形成の促進に有意な差は認められなかったが、骨細胞では、2週目で形成の促進に有意な差が認められた。軟骨細胞の形成は阻血CONT群の2週目で確認できた。またサイトカインの測定では、TGF-β1測定において低周波治療の初期に分泌が有意に促進されることが確認された。
【考察】
4群のラットの組織形態学的な比較検討では、低周波治療には、骨芽細胞・骨細胞の出現を促進させる効果があるという結果が示された。また、サイトカインの測定の結果では、低周波治療により初期のTGF-β1濃度が高値を示し、オステオカルシン濃度も上昇する傾向がみられた。これらの組織形態学検討とサイトカイン測定の検討から、低周波治療は骨再生に有効な治療であるということが示唆された。骨折の治療を行う場合、適応の時期や炎症の程度を考慮しながら、低周波治療を行っていくことが好ましいと考える。