理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 40
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理学療法基礎系
発達段階の違いが脊髄に鈍的外傷を受けた後の運動機能変化に与える影響
武本 秀徳森山 英樹坂 ゆかり大谷 拓哉前島 洋小野 武也前岡 美帆遠藤 竜治沖 貞明梶原 博毅飛松 好子
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抄録

【背景】成熟ラットの脊髄に打撃や圧迫といった鈍的外傷を加えると,一旦運動機能が失われた後,徐々に機能が回復する.一方,神経機能が完成する以前のラットに脊髄打撃を与えると,成熟ラットよりも早く機能が回復するとされる.しかし,神経学的に完成した後も,発達段階が脊髄の鈍的外傷後における機能変化の経過と予後に影響を与えるのか現時点では明らかでない.そこで今回,神経学的に完成した直後のラットと成熟ラットの脊髄に同じ鈍的外傷を与え,その後の後肢機能回復について比較した.
【対象と方法】歩行が完成直後の4週齢の雄ラット(n=9)を対象とし,12週齢の雄ラットを成獣対照(n=9)とした.各週齢のラットに対しT8胸髄を動脈瘤クリップで圧迫(25g×60秒)した圧迫群,麻酔のみ施した非圧迫群を作成した.後肢機能として,Basso-Beattie-Bresnahan (BBB) scoreに基づく後肢の歩行能力(21点満点),および傾斜板上での姿勢保持能力を術後6週まで調べた.実験終了時に全てのラットを灌流固定し,T8胸髄を摘出,凍結,20μm厚に横断薄切した.切片に対してluxol fast blue染色を行い,脊髄圧迫部の横断面積を比較した.
【結果】BBB scoreに基づく後肢の歩行能力は,非圧迫群では全期間を通じ満点の21点だった.4週齢圧迫群では2週後まで,12週齢圧迫群では4週後まで回復が見られ,前者の経過の方が早かった.6週後での得点は,4週齢圧迫群が13.5点,12週齢圧迫群が11.5点で両者に差はなかった.傾斜板上での姿勢保持は,非圧迫群では全期間を通じ傾斜角78.28°まで姿勢が保持できた.4週齢圧迫群では6週後まで,12週齢圧迫群では4週後まで回復が認められ,前者の経過の方が長かった.6週後で姿勢が保持できた角度は,4週齢圧迫群63°,12週齢圧迫群53.5°で,前者の方が有意に高かった.6週後において,非圧迫群のT8胸髄の横断面積に差はなかった.脊髄圧迫部の横断面積は,4週齢圧迫群の方が12週齢圧迫群より有意に少なかった.
【考察】歩行能力の回復は,4週齢圧迫群の方がより早い経過を示したが,週齢の違いは回復程度に差をもたらさなかった.傾斜板上での姿勢保持能力は,4週齢圧迫群の方がより長い経過を要したが,より高い程度まで回復した.歩行は高度の技能を要さないと考えられ,そのため経過に差はあっても最終到達点は週齢で変わらなかったのだろう.他方,より高い技能を要したと思われる傾斜板上での姿勢保持能力については,12週齢圧迫群は早く回復の限界に達したため,早い経過と低い回復程度を示したと考えられる.6週後における脊髄圧迫部の横断面積は4週齢圧迫群の方が少なかったが,圧迫の脊髄への障害性が週齢によって異なるか,圧迫時の障害性は同じでも若い脊髄ではその後の成長が妨げられた結果だろう.

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© 2008 日本理学療法士協会
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