主催: 社団法人日本理学療法士協会
【背景】臨床において理学療法士は日常生活動作能力を評価することが多い。日常生活動作は歩行や方向転換,リーチ動作といった多くのパフォーマンスの集合体であり,特に立位・歩行時のパフォーマンス評価は,自立度判定や転倒防止に資する重要な情報である。これまでにも数種の評価尺度が発表されているが,日常生活に必要な,立位・歩行時のパフォーマンスを経時的に評価できるものは少ない。また,脳卒中患者の非対称性といった特性を考慮した限定的評価尺度は少ない。本研究の目的は,脳卒中患者を対象に,日常生活動作の遂行に必要な立位・歩行時のパフォーマンスを評価する「脳卒中動作能力尺度 Stroke Performance Scale(SPS)」を開発することである。
【対象・方法】尺度の項目は,動作能力の異なる脳卒中患者3名の日常生活動作場面(食事,更衣,整容,排泄,入浴,敷居またぎ,開き戸の開閉,階段昇降)をビデオ撮影し,12名の理学療法士が観察することより抽出され,頻度毎に点数化された。この情報を基に項目の追加・修正を行い,仮尺度を作成した。項目の選択肢は自立から中等度介助以上の5段階(0‐4点)とした。この仮尺度を2施設に入院・外来通院中の軽介助にて立位保持が可能な脳卒中患者48名(年齢68.9±9.3歳)に実施した。評価は2名の検者により経日的に行なわれた。分析は尺度の一次元性確保のため主因子法による因子分析を行なった。各項目の一致度の指標としてκ係数,一致率,平均誤差を,尺度全体の内的整合性の指標としてクーロンバックαを算出した。また評価結果を自立・見守りを基準に2値反応データに変換し,項目反応理論を用いて各項目の困難度や識別力を算出した。この情報を基に項目を再検討し,SPSを完成した。
【結果】ビデオ観察により抽出されたのは,14立位項目(立位保持,リーチ,ステップなど),6移動項目(歩行,方向回旋,またぎなど)であり,各項目点数は平均127.1(6‐350)点であった。これに起立・着座,つま先上げなど5項目を加えた25項目(100点)を仮尺度とした。仮尺度による評価結果は平均59.3±31.0(1‐98)点であった。因子分析の結果,2因子が抽出され,第1因子の因子負荷量は0.60‐0.92,因子寄与は17.7,因子寄与率は70.8%であった。κ係数は0.50‐0.76,一致率は0.60‐0.89,平均誤差は1.0‐2.3点であり,中等度の一致を示した。クーロンバックαは0.98であり内的整合性は高かった。各項目の困難度は-1.72‐1.22,識別力は1.53‐32.63であった。項目の再検討により5項目が削除され,一次元性が確認された20項目(80点)によりSPSが完成した。
【考察】SPSは項目の一致度,困難度,識別力などを基準に項目を選別したことにより,脳卒中患者のパフォーマンスの改善を段階的に評価できると考える。しかし項目内一致度が中等度であり,評価の判定基準をさらに明確にする必要がある点や,難易度の高い項目が少ない点などの改善点が挙げられる。今後はSPSの臨床適性を検討したい。