理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 515
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理学療法基礎系
膝関節自動伸展運動におけるスクリューホームムーブメントの加齢変化
石井 慎一郎山本 澄子
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抄録

【目的】膝関節は屈曲位から伸展する際にスクリューホームムーブメント(以下SHM)と呼ばれる外旋運動が受動的に起こる.SHMの詳細な運動動態については個人差や加齢による変化,靭帯の弛緩性による影響など,依然として不明な部分が多い.そこで本研究では生体膝の自動運動下におけるSHMの動態特性を明らかにするため,三次元運動計測により,SHMの加齢変化を調べた.
【方法】対象は本研究に同意した下肢に既往の無い20~79歳までの成人男性26名,女性 33名の計59名とした.計測課題は,股関節と膝関節が90度屈曲位となる端座位からの膝屈伸自動運動とした.開始肢位より膝関節のみを自動的に完全伸展位まで伸展させ,再び開始肢位まで戻す動作を連続して10回行わせた.膝関節の三次元運動計測には,Andriacchiらが考案したPoint Cluster法(以下PC法)を用いた.被験者の体表面上のPC法で定められた所定の位置に,赤外線反射標点を貼り付け,課題動作中の標点位置を三次元動作解析装置VICON612(VICON-PEAK社製)により計測した.得られた各標点の座標データをPC法演算プログラムで演算処理を行い,膝関節の屈伸角度,回旋角度,ならびに大腿骨に対する脛骨の前後方向移動量を算出した.各被験者の10試行のデータから, Tokuyamaの報告した最小二乗法に基づいた位相あわせによる平均化手法を用い各被験者の平均波形を抽出した。得られたデータから,各被験者の膝最終伸展位における脛骨の回旋角度ならびに脛骨の前後移動距離を調べ,年齢との関係をSpeamanの相関係数を算出して調べた.統計学的有意水準は危険率p<0.05とした.
【結果】膝最終伸展位における脛骨の外旋角度は,年齢が高くなるにつれ小さくなる傾向にあった(p>0.05).60歳以上の被験者では27名中14名の被験者が内旋位になっていた.また,脛骨の前後移動距離と年齢との間には統計学的有意差は認められなかったが,60歳以上の被験者を対象に,脛骨の回旋角度と前後移動距離との関係を調べたところ,脛骨が内旋する被験者では脛骨の前方移動距離が大きくなる傾向にあった(p>0.05).
【考察】60歳以上の被験者で,SHMが逆転し脛骨の内旋運動が起きる被験者が多く観察されたのは,加齢変化に伴う靭帯の緊張状態の変化の影響によるものと考えた.ま,SHMが内旋する被験者では,脛骨の前方移動が大きいという結果からも,何らかの原因で脛骨が前方へ変位し,それが原因となって伸展に伴い脛骨が内旋すると考察した.SHMの逆回旋は,関節の伸展運動を制限し,関節の安定化にも重大な問題を引き起こす.変形性膝関節症の有病率が60歳以上で急激に多くなること,SHMの逆回旋が60歳以上で多く見られるようになることに因果関係が存在する可能性が考えられた.

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© 2008 日本理学療法士協会
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