抄録
【目的】臨床上、脳卒中片麻痺者(以下CVD者)のバランス能力を評価する際、麻痺側への体重移動に着目することが多いが、非麻痺側体重移動においても、拙劣な印象をうけることがある。先行研究においても非麻痺側体重移動が拙劣との報告がある。そこで、今回、非麻痺側体重移動時の前額面上のアライメント特性に着目し、バランス能力との関係を検証した。
【方法】対象は指示理解が可能で研究の趣旨に同意が得られたCVD者11名(平均年齢63.9±7.8歳、男性10名、女性1名、右片麻痺5名、左片麻痺6名)とした。取り込み基準は、立位、歩行が監視から自立にて可能な者とした。アライメントの測定は被検者の肩峰、大転子、外果にマーカーをつけ、静止立位時、非麻痺側体重移動時の立位アライメント(3秒保持)をデジタルカメラで前額面より撮影した。その後、姿勢計測ソフト(埼玉県産業技術総合センター開発rysis extra standing ver.1.0)を使用し、非麻痺側の肩峰と大転子の各々の位置と外果をむすぶ線の垂線からの傾き【 肩峰(大転子)傾斜】を静止立位時と非麻痺側体重移動時の2条件において求めた。また、傾斜の変位量を各指標の2条件間での差【肩峰(大転子)傾斜変位量】とし、算出した。バランス能力の指標はtimed up and go test(以下TUG)を3m至適速度の条件で測定し、前述したアライメントとの関係について検討した。解析にはPearsonの相関係数を用い、有意水準を1%未満とした。
【結果及び考察】各条件での傾斜の平均は、静止立位時の肩峰傾斜4.1±2.0(1-8)度、大転子傾斜5.2±2.6(1-8)度で、非麻痺側体重移動時の肩峰傾斜9.0±1.4(7-11)度、大転子傾斜10.6±2.4(7-16)度、肩峰傾斜変位量4.9±2.2(1-8)度、大転子傾斜変位量5.4±2.3(1-8)度であった。TUGの平均は45.2±27.5秒であった。静止立位時には、肩峰傾斜のみでTUGと有意な正の相関(r=0.78)があり、TUGのパフォーマンス低下に肩峰の非麻痺側偏移が強く影響していることが示唆された。非麻痺側体重移動時では、肩峰および大転子傾斜ともに TUGと有意な相関がなかった。傾斜の変位量では、大転子傾斜変位量のみがTUGと有意な負の相関(r=-0.82)があり、大転子の変位量が大きいものはTUGのパフォーマンスが高いことが示唆された。以上より、CVD者のバランス能力に非麻痺側体重移動時のアライメント特性が影響することが示唆され、特に静止立位時の非麻痺側肩峰と非麻痺側体重移動時の非麻痺側大転子の変位量に着目すべきであると考えられた。