抄録
【はじめに】
近年、前十字靭帯(以下ACL)再建膝において、動作時の下腿回旋異常についての報告が散見される。Scottら(2004)は、術後4~12ヶ月経過した6症例において、再建膝ではランニング時に下腿外旋が生じるとした。Ristanisら(2006)は、再建膝ではジャンプ着地などの動作時に下腿の回旋異常が起こると報告している。今回我々は、動作時の下腿回旋異常の原因の一つと考えられる可動域制限の有無を明らかにするために、当院で行われている解剖学的ACL再建術後症例を対象として6ヶ月以降の下腿回旋可動域を測定したので報告する。
【対象】
当院でACL再建術を受け、術後6ヶ月~11ヶ月経過した16名(男性6名・女性10名、平均年齢20.3±8.0歳、身長162.9±6.5cm、体重58.7±8.4kg)を対象とした。再建材料は半腱様筋腱13名・骨付き膝蓋腱3名、合併症として半月板縫合術9名・切除術4名であった。
【方法】
測定肢位は端座位(股・膝関節屈曲90°、足関節背屈0°)とし、踵部を回転円板の中心に置き、大腿及び足部を固定し円板を回転させ測定した。大腿部の固定は徒手で、足部の固定には装具を使用した。測定はまず足部を中間位に合わせ、脛骨内側面からの垂線の値を0とし、内外旋を加え移動した角度を求めた。なお測定方法は、級内相関係数0.9以上の高い再現性が得られた。統計学的検定は、Wilcoxonの符号付き順位検定を行い有意水準は5%未満とした。
【結果】
外旋可動域は、健常側:30.7±7.6°再建側:32.6±5.4°であった。内旋可動域は健常側:21.8±6.9°再建側:20.1±7.3°、総可動域は健常側:52.5±12.8°再建側:52.7±19.2°であり、内外旋、総可動域ともに健常側と比較し有意差はなかった(P<0.05)。
【考察】
ACL再建術後3、4、5週での自動下腿回旋可動域を測定した我々の先行研究では、内旋可動域が再建側で有意に小さい値を示していたが、術後6ヶ月以降では健常側と近似するまで回復していた。解剖学的な位置に骨孔を作製し、至適初期張力を加えたACL再建術では、術後に下腿回旋の可動域制限は存在しないことが明らかとなった。また当院では下腿回旋ストレスが発生する回旋自動運動を術後3週から、サイドランジや方向転換は術後12週より開始し、術後5ヶ月よりカッティングなどの動作指導を行っている。これらのトレーニングの開始時期や方法の妥当性が示唆された。