理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 580
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骨・関節系理学療法
足関節背屈可動域改善に遠位脛腓関節の後上方滑り運動は有効か?
未固定遺体を用いた生体力学的研究
藤井 岬宮本 重範村木 孝行内山 英一鈴木 大輔青木 光広辰巳 治之
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抄録

【はじめに】足関節の背屈可動域制限は足関節骨折や捻挫後に多く見られる障害の1つであり、理学療法が適応となる。足関節背屈可動域制限因子としては下腿三頭筋の伸張性低下の他に、距腿関節や脛腓関節の関節包内運動の低下が考えられている。関節包内運動に関する過去の研究では、主に距腿関節に焦点を当てたものが多く、遠位脛腓関節へのアプローチについての見解は少ない。関節モビライゼーションによる腓骨遠位端(外果)の後上方滑り運動の増大は内・外果間の距離の拡大につながり、足関節背屈の可動域を拡大させると考えられている。しかし、この運動が効果的となる徒手負荷と回数はいまだ明らかにされていない。本研究の目的は腓骨外果の後上方滑りの振幅運動を想定した張力を繰り返し腓骨外果に加えた時の脛骨と腓骨の変位量と足関節可動域の変化量を測定し、これらの変化量と後上方滑りの反復回数の関係を明らかにすることである。
【方法】実験には生前同意を得られた未固定遺体7肢(男性5名,女性2名,平均79.9歳)を用いた。実験は大腿遠位から1/3を切断した下肢標本を足底接地させ、中足骨と踵骨で木製ジグに固定し、足関節底屈10°で行った。反復張力は万能試験機(Shimazu社製、AG-1)を用い,MaitlandによるGridingの分類GradeIIIの張力を想定した15N~30Nの振幅で1000回、0.5Hzで後上方へ加えられた。骨運動と足関節背屈可動域に計測には三次元電磁気動作解析装置(Polhemus社製、3Space Fastrack)を用いた。
【結果】腓骨外果の実験開始時(1回目)に対する相対的な位置は振幅100回目、1000回目でそれぞれ0.4±0.3mm、0.9±0.4mm後上方の方向へ変位した。脛骨は振幅100回目、1000回目でそれぞれ0.3±0.2°、0.7±0.8°、腓骨では0.2±0.2°、0.6±0.5°開始時より外旋した。実験前の足関節背屈可動域は実験開始前の14.4±7.5°に対して、1000回の反復実験終了後では16.5±7.1°であり、有意差がみられた。
【考察】
本実験では、腓骨外果の後方滑り反復張力は脛骨と腓骨の両骨を外旋させ、腓骨外果を後上方へ変位させた。また、1000回で十分と考えられた振幅後でも腓骨外果の変位は1mmに満たなかった。しかし、腓骨に反復張力を加えることによって足関節背屈可動域は有意に拡大した。すなわち、非常にわずかな腓骨の後上方への移動と脛骨・腓骨の外旋運動が明らかに背屈角度の拡大に影響していることが示された。したがって、腓骨外果に後上方への振幅をGradeIIIで加える遠位脛腓関節モビライゼーションは背屈可動域制限の治療に効果的であると考えられる。さらに、1000回以内であれば振幅回数が多いほど効果的である可能性が示唆された。

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© 2008 日本理学療法士協会
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