理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 609
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骨・関節系理学療法
関節リウマチにより両側全人工膝関節置換術を施行した症例
池田 真琴田中 剛原 順子元田 圭香江本 玄
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抄録

【はじめに】全人工膝関節置換術(以下TKA)は除痛やアライメント矯正などを目的として施行される。関節リウマチ(以下RA)の場合、術後のアライメント変化により他関節に新たな負担がかかり別の問題を生じるとの報告がある。今回、RAにより一度の入院で、2回に分けてTKAを施行した症例を担当する機会を得たので、ビデオ解析によるアライメント変化を併せ、経過報告する。
【症例紹介】73歳女性、身長:133.3cm、体重:38kg、診断名:RA・骨粗鬆症、現病歴:H11年よりRAで加療中。徐々に自立歩行困難となり、屋内は歩行器、外出時は車椅子使用。H19年8月20日に右TKA、2週間後の9月3日に左TKA施行。
【術前評価】1.Steinbrockerの分類:stage3、class3(膝関節)、両手関節尺側偏位、外反母趾、扁平足など四肢関節に高度な変形がみられた。2.疼痛(VAS):膝関節歩行時(右:6左:5)3.ROM(右/左):屈曲(150°/150°)伸展(-50°/-40°)4.筋力(MMT):股関節3~4、膝関節2、足関節2~3。5.歩行能力:歩行器前腕支持にて可能、膝・股関節屈曲位、体幹前傾位にてすり足歩行、要監視レベル。6.ADL:FIM 100/126点
【治療経過】右TKA術翌日より理学療法開始。起立訓練を術翌日より、歩行訓練を術後8日目から実施。左膝にかかる負担を考慮し、左TKAが施行されるまでの期間は、日常生活において車椅子を使用した。左TKA術翌日より理学療法再開。術後7日目より歩行訓練を開始し、術後17日目より歩行器歩行へと移行。入院期間は6週で自宅退院となった。術後2ヶ月では各関節における疼痛(-)、ROM(右左):屈曲125°伸展-10°、シルバーカー歩行自立、ADL:FIM 106/126点であった。また、立位矢状面アライメントの変化について、インク社製FORMFINDER動作解析ソフトを用いて関節角度を計測した。術前と2ヶ月後の変化は、体軸と大腿骨のなす角118.4°→165.7°、大腿骨と脛骨のなす角99.6°→137.0°、脛骨と足底のなす角60.7°→71.6°であり立位アライメントの変化を認めた。
【考察】本症例は、両膝の関節破壊、重度の伸展制限がみられたが、低身長、低体重というリスクを考慮し、2週間空けて施行した。両側TKA施行により下肢のアライメント変化を生じ、膝関節伸展制限が改善したことで体幹前傾は減少した。さらに、他関節のアライメントが変化したにも関わらず、疼痛を増強させることなくADL能力を向上することができた。これは各関節の位置が重心線に近づくことで伸展モーメントが減少し、他関節にかかる負担を軽減することに繋がったと考える。TKA後の理学療法ではROM獲得も重要視されるが、今回は除痛、関節の保護、筋力訓練に重点を置いて理学療法を施行した。現在では、立ち上がり動作、歩行において改善が見られ、本人のモチベーションを高めることとなった。しかし、これが手術後一時的なものではなく、いかに長期間維持されるかが重要であり、今後も継続して経過観察していきたいと考える。

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© 2008 日本理学療法士協会
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