抄録
【はじめに】
臨床場面において、誤嚥性肺炎により入退院を繰り返す症例を多く経験する。このような症例では、誤嚥性肺炎の繰り返しにより、ADLや全身状態の悪化をきたし、さらに嚥下機能の低下にいたるといった悪循環に陥りやすい。今回、誤嚥性肺炎患者における有効な理学療法介入について検討する目的で、当院に入院された誤嚥性肺炎患者における臨床的特徴について調査を行ったので報告する。
【対象】
平成18年4月より平成19年3月までの間に、当院に入院し、呼吸理学療法が実施された667症例のうち、誤嚥性肺炎と診断された67例(男性47例、女性20例)を対象とした。
【方法】
カルテより後方視的に、1.患者背景:年齢、併存疾患、入院前ADL、2.胸部画像所見、3.理学療法:介入期間、実施内容、4.帰結:入院期間、転帰、最終ADL、最終栄養摂取状況、について調査を行った。胸部画像所見については、主治医による入院時の読影所見を基に異常部位を分類した。
【結果】
1.患者背景:平均年齢75.8±19.4(3-98)歳、併存疾患(重複あり)は、脳血管障害が30例と最も多く、消化器系疾患10例、呼吸器疾患9例、意識障害・認知症8例の順であった。入院前ADLは、全介助38例、部分介助15例、自立14例であった。2.胸部画像所見:異常所見なし6例、右肺野のみ23例、左肺野のみ9例、両側29例で、下肺野に異常所見を認める症例が多かった。3.理学療法:介入は43例で第2病日以内に開始され、平均実施期間は27.0±23.0日であった。実施内容は排痰、ポジショニングから介入し、全身状態の改善にあわせて離床、運動療法へと移行していた。離床困難な例でも可動域練習は実施されていた。4.帰結:平均入院期間は36.0±28.3日で、転帰は自宅退院28例、施設への転院17例、病院への転院11例、死亡11例であった。退院時ADLは、全介助が35例、自立11例、部分介助10例の順で、最終栄養摂取状況は、経鼻・経腸栄養実施症例が33例、経口摂取19例、経静脈栄養4例であった。
【考察】
今回の調査より、当院における誤嚥性肺炎症例の臨床的特徴は、高齢で、併存疾患を多く認めるADLの低下した症例という、過去の報告と一致するものであった。また、胸部画像所見では下肺野に異常所見を認める症例が多かった。これは摂食時の誤嚥のほか、唾液の流れ込み、胃内容物の逆流による不顕性誤嚥が関係していると推察された。
これらの結果をふまえ、誤嚥性肺炎症例に対する理学療法は、摂食・嚥下機能の観察・アプローチに加え、ADL低下の予防、不顕性誤嚥を予防するための姿勢管理が重要であると思われた。