抄録
【目的】先行研究(Izawa et al.,2004,2005)において我々は, 最高酸素摂取量(PVO2)や骨格筋機能などの身体機能指標, 健康関連QOL(HRQOL)およびそれらの媒介変数である身体活動セルフ・エフィカシー(SEPA)に対して, 運動療法を主体とした回復期プログラムがそれらの向上に影響を与えることを報告した. しかし疾患別でのそれら各指標の実態および関連性についての報告は少ない. 本研究の目的は,疾患別の身体機能指標, SEPA,およびHRQOLを比較検討し, HRQOLの関連要因について明らかにすることである.
【方法】 対象は, 当院ハートセンターに急性心筋梗塞(AMI)あるいは心臓外科手術目的で入院後, 急性期プログラムを終了し外来での心肺運動負荷試験(CPX)の依頼があった1924件中, 発症あるいは手術後1か月時点でのCPX, 身体機能指標, SEPAおよびHRQOLの測定を施行した連続600例である. 属性 (年齢, 性別, BMI)に関する情報は診療記録より調査した. 身体機能指標は, 握力, 膝伸展筋力, PVO2を用いた. SEPAはSEPA尺度(2002, 岡)を用い, 上下肢活動に関するSEPAの2項目に分け,その平均値を算出した. HRQOLはSF-36の身体的健康度(PCS)と精神的健康度(MCS)のサマリースコアを用いた. これら各指標について心筋梗塞366例(AMI群)と心臓外科術234例(CS群)の2群間で比較検討し, HRQOLの関連要因を抽出した. 統計学的手法はカイ二乗,t検定および重回帰分析を用いた.統計学的判定の基準は5%未満とした. なお本研究は, 当大学生命倫理委員会の承認を得て施行された.
【結果】結果はAMI群 vs. CS群の順に, 年齢 (61.5 vs. 62.1歳, p=0.55), 性別 (男性の割合, 85 vs. 80% p=0.54), BMI (23.3 vs. 22.1 kg/(m)2, p=0.01), 握力(35.8 vs. 30.6 kg, p=0.01), 膝伸展筋力(1.7 vs. 1.5 Nm/kg, p=0.01), PVO2(24.3 vs. 21.1 ml/kg/min, p=0.01), SEPA (上肢, 64.5 vs. 45.0, 下肢, 69.5 vs. 61.2, p=0.01), PCS (46.7 vs. 43.8, p=0.01), MCS (49.5 vs. 49.1, p=0.52)であった. 重回帰分析の結果, PCSの関連要因としてAMI群は下肢活動のSEPA(R2=0.11, p=0.01), CS群は上肢活動のSEPA(R2=0.14, p=0.01)が抽出された. 一方, MCSは, AMI群は下肢活動のSEPA(R2=0.12, p=0.01), CS群は握力と上肢活動のSEPA(R2=0.15, p=0.01)が抽出された.
【考察】CS群はAMI群に比し身体機能, SEPA, PCSは低値を示すことから, 特にCS患者に対するそれらの向上のための配慮が必要であると考えられた. またCS群, AMI群ともにHRQOLの関連要因の一つとして, 媒介変数であるSEPAが少なからず関与することからHRQOLに対するSEPA向上の重要性が示された.