理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 814
会議情報

教育・管理系理学療法
社会的コミュニケーション能力向上を目的とした学内教育の展開(第一報)
非言語的コミュニケーション能力の調査
松尾 篤森岡 周冷水 誠前岡 浩瓜谷 大輔丸尾 朝之高取 克彦福本 貴彦今北 英高峯松 亮田平 一行庄本 康治今井 至
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抄録
【目的】理学療法学教育では,認知領域,精神運動領域,情意領域の三つの観点から目標設定している。近年,臨床実習教育のレディネスの一つとして,OSCE(Objective Structured Clinical Examination)が提案され,認知領域,精神運動領域に対応した学内教育プログラムとして注目されている。一方,情意領域の教育は,臨床的態度を養うために必要であるが,未だ経験則からの接近がほとんどである。理学療法士の資質には知識,技術だけでなく,社会的認知と技能に基づく優れたコミュニケーション能力が求められる。これには非言語的コミュニケーションである他者の意図や感情を読み取る(mind reading: 以下MR)能力が関与している。今回,我々は理学療法学科学生の対人コミュニケーションの基本要素である非言語的コミュニケーション能力に関する調査を実施したので報告する。
【方法】本学1~4回生281名(1回生62名,2回生90名,3回生69名,4回生60名)を対象とした(4回生は臨床実習終了後)。男性169名,女性112名,平均20.4±1.7歳であった。非言語的コミュニケーション能力の調査には,対人間知覚課題(interpersonal perception task)を用いた。The Interpersonal Perception Task-15(IPT-15,Berkeley Media社)の映像を用い,各設問に対する回答を求めた。なおIPT-15は言語要素以外の非言語的な表情,態度,振る舞い,視線,声の抑揚等から,映像内の社会的人間関係,親子関係,欺瞞を判別する課題である。課題時間は20分,設問は15問,スコア範囲は0~15点とした。基本情報として,学年,性別,年齢,家族構成を記録した。IPT-15の合計スコアに基づき学年,性差の比較,設問内容の特性による正答分類を行った。
【結果】平均スコアは8.24±1.9点であった。1回生8.01±1.7点,2回生8.12±2.1点,3回生8.40±1.9点,4回生8.50±2.1点であり,統計学的有意差はなかったが高学年ほど高い傾向にあった。性別間では男子学生8.18±1.9点,女子学生8.35±2.0点であり,統計学的有意差はなかったが女子学生が高かった。
【考察】学年間でスコアに有意差はなかったが,高学年で高い傾向を示した。これは学年進行に伴い社会的認知能力の向上がみられる傾向にあることが示唆された。一方,女子学生のスコアが高い傾向にあったことは,共感システムの発達が女性で優れている見解に一致した(Baron-Cohen 2005)。MRには,しぐさや視線等から相手の意図を検出し,それに共感する機能が必要である。よりよい対人コミュニケーションのためには,多様な文脈の中で適切なMRを用い,文脈に適合する自らの行動や意思決定が必要である。学内教育においても,専門的知識や技術の修得のみならず,コミュニケーション能力向上に注目すべきかも知れない。
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© 2008 日本理学療法士協会
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