理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-026
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理学療法基礎系
ラッシュ分析を用いた脳卒中動作能力尺度 Stroke Performance Scaleの改良
徳久 謙太郎河村 隆史三好 卓宏門田 拓畑 寿継林 拓児鶴田 佳世小嶌 康介兼松 大和藤村 純矢梛野 浩司庄本 康治嶋田 智明
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抄録

【背景】Evidence-Based Physical Therapyの構築の必要性が提唱される近年,その基盤をなす臨床適性に優れた,標準的な尺度による理学療法評価が重要視されつつある.理学療法士が評価・治療対象とする日常生活動作(ADL)の評価尺度はFunctional Independence Measureなど様々なものが存在するが,ADLの要素となる身体パフォーマンスを評価する尺度は少なく,標準的に使用されているものはないのが現状である.特に立位・歩行時の身体パフォーマンス(リーチ動作や方向転換など)の評価は,自立度判定や転倒防止に資する重要な情報である.そこで我々は脳卒中片麻痺患者のADL遂行に必要な立位・歩行時の身体パフォーマンスから構成される脳卒中動作能力尺度(Stroke Performance Scale:SPS)を開発し,その臨床適性について検討してきたが,簡便性に欠けるなどの幾つかの問題も残されていた.本研究の目的は,さらにSPSの臨床適性を高めるため,ラッシュ分析を用いてその尺度構造を明らかにし,段階的な能力の測定を可能にした修正版SPS(Rasch-Model-based SPS:RM-SPS)を開発することである.
【対象・方法】対象は3施設に入院・外来通院中の軽介助にて立位保持が可能であり,本研究の趣旨について十分な説明を受け,参加に同意した脳卒中片麻痺患者102名(年齢69.5±9.9歳)である.対象者に,ADL場面の観察などから選出された25項目の仮尺度の測定を実施した.項目の評点段階は完全自立,修正自立,見守り,軽介助,中等度介助以上の5段階(0-4点)とした.この仮尺度の測定結果に対しラッシュ分析を実施した.まず全項目の評点段階観測数から段階設定の適正を検討した.次に本尺度に採用する項目選択を行った.選択・除外基準は以下の3つである.第一基準は「各項目別の評点段階観測数」であり,極端に観測数のばらつきがある項目は除外した.第二基準は「ラッシュモデルへの適合度」であり,適合度指標のinfit・outfit平方平均ともに,有害とされる基準(1.3)以上を示す項目は除外した.第三基準は「代理機能」であり,二つ以上の項目で項目難易度の差が小さく,同種の内容があれば除外した.
【結果】全項目の評点段階観測数にて,見守りと軽介助が極端に少ないことから,評点段階は見守りを削除した4段階(0-3点)とした.項目選択では,仮尺度25項目の内,第一基準にて1項目,第二基準にて4項目,第三基準にて4項目が除外された.最終的にRM-SPSは立位9項目,移動7項目,計16項目48点の尺度として完成した.項目難易度は-2.98-4.25 logits,適合度指標の平方平均は0.62-1.28であり,対象者のRM-SPS得点は26.6±15.8点,受験者能力は-7.40-8.07 logitsであった.
【考察】RM-SPSは難易度の異なる項目から構成される,段階数の多い尺度であることから,脳卒中片麻痺患者の身体パフォーマンスの変化を詳細かつ段階的に評価することが可能である.また得点を間隔尺度上の点数に変換可能である.今後は本尺度の測定特性や臨床的有用性を検討したい.

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© 2009 日本理学療法士協会
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