理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-003
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理学療法基礎系
動物実験モデルを用いたMicrofracture後の修復軟骨の病理組織学的検討
高橋 郁文細 正博松崎 太郎小島 聖渡邉 晶規荒木 督隆上條 明生北出 一平
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抄録

【目的】
Microfractureは外傷性関節軟骨損傷や変形性関節症に対して軟骨再生を期待して行われる手法である.この方法は軟骨損傷部位に対して微細な骨穿孔を行い,骨髄からの出血を生じさせ,骨髄系幹細胞や成長因子などを誘導することで軟骨を修復する方法である.Microfracture後の修復軟骨は,機能的にも組織学的にも正常関節軟骨とは異なっているとされ,正常軟骨よりも耐久性が低いとされているが,先行研究の記述は線維性軟骨,硝子様軟骨,硝子軟骨と一致しておらず,統一された見解は得られていない.そこで,今回動物モデルを使用して, Microfracture後の術後の時間経過による修復軟骨の変化を病理組織学的に検討した.
【方法】
対象として9週齢のWistar系雄性ラット6匹を使用した.ネンブタール腹腔麻酔下にて左右膝関節を最大屈曲位とし,剃毛後,膝関節前面をイソジンにて消毒した.膝関節前面の皮切後,大腿骨内外顆に直径1.0mmのキルシュナー鋼線を用いて関節包の上から穿孔を行った.穿孔後,骨髄からの出血を確認し,切開した皮膚を縫合した.実験動物は2匹ずつ実験直後のA群,1週間後のB群,2週間後のC群の3群に無作為に分類した.実験後,膝関節の固定と免荷は実施せず,ケージ内を自由に移動でき,水,餌を自由に摂取可能とした.飼育期間後,エーテル深麻酔にて安楽死させ,股関節離断した両下肢をホルマリン固定した.軟部組織の除去後,大腿骨を採取した.脱灰後,大腿骨を矢状面で切断し,大腿骨遠位部断面標本を作製した.その後,中和,パラフィン包埋を行い,ミクロトームにて3μmで薄切した.染色はヘマトキシリン・エオジン染色を行い,光学顕微鏡下で大腿骨遠位部を病理組織学的に観察した.なお,この実験は金沢大学動物実験委員会の承認を受けて行った.
【結果】
A群では穿孔部位に多数の赤血球を含む血腫が観察された.B群・C群では穿孔部位は線維軟骨によって修復されていた.B・C群の両方において,穿孔部位に隣接する関節軟骨表面が線維性組織に覆われており,その組織中には血管の走行が観察された.しかし,C群では線維性組織に覆われている範囲はB群と比較して,小さくなっていた.
【考察】
Microfractureにより,軟骨欠損部位は線維軟骨によって修復された.これは多くの先行研究によって述べられており,本研究結果もこれら先行研究を支持した.一方,修復に硝子軟骨成分は観察されず,一部の先行研究とは異なっていた.また,周囲の関節軟骨表面が線維性組織に被覆される変化や血管が侵入する変化はこれまで報告されていない.これらの変化は出血に起因する可能性があるが,詳細は不明であり,少なくとも本動物実験モデルにおいてはMicrofractureには軟骨損傷を拡大するリスクが存在することが示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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