理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-015
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理学療法基礎系
健常成人における体性感覚情報から言語情報への変換
平井 達也田中 知美原田 隆之増田 初美木村 友一千鳥 司浩下野 俊哉
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抄録

【目的】
知覚検査は一般に受動的な条件で行われるが,日常における知覚はアクティブ・タッチ(Gibson,1962)であることが多い.アクティブ・タッチによる環境内の物理的違いから認知的な違いへの情報変換は運動や記憶保持において重要な役割を果たすと考えられる.本研究の目的は,健常若年成人を対象に,物品の探索活動による体性感覚情報から言語情報への変換における基礎的な知見を得ることである.
【方法】
対象は,知覚障害のない健常成人14名(平均年齢26.3±3.2歳)とし,全員に本研究の概要を説明し同意を得た.方法は,静かな個室で安楽座位にて閉眼し,利き手で机上においた2つの物体を別々に触り,2つの差について出来る限り多く言語化するように指示した.2つの物体を1組とし4組を独自に作成し,明らかな物理的違い(内容:大きさ,材質,重さ,形,硬度)の数と内容をA群 2個(大きさ,材質),B群3個(材質,重さ,形),C群 4個(大きさ,材質,重さ,硬度),D群5個(大きさ,材質,重さ,形,硬度)に配分した.対象者には4組をランダムに提示した.評価は,ビデオ画像を用い,表出数,探索から言語化終了までの時間(探索時間),2つの物体を持ち替えた回数(探索回数)について検者内(検者1がランダムに2回評価),検者間(検者1と2の1回の評価を使用)の信頼性を完全一致率もしくはICCで確認した後,1)物理的違い(数)と言語化された違い(数)の差(見落とし数)の群間比較,2)見落とし数の物理的違い間における比較,3)探索時間の群間比較,4)探索回数の群間比較とした.統計学的解析は一元配置分散分析を行い,主効果が有意であった場合,多重比較をおこなった(p<0.05).
【結果】
評価の信頼性は,検者内の表出数100%一致,探索時間ICC(1,1):0.98~0.99,持替回数100%一致.検者間の表出数ICC(2,1):0.84~1,探索時間ICC(2,1):0.98~0.99,持替回数ICC(2,1):0.96~0.99であった.1)見落とし数の群間比較には有意な主効果が認められた(F=4.82,p=0.005).多重比較の結果,AとC,AとDに有意差(p<0.05)が認められた.2)見落とし数の物理的違い間における比較にも有意な主効果が認められた(F=8.13,p<0.001).多重比較の結果,重さと大きさ,形,硬度に有意差(p<0.01)が認められた.3)探索時間(F=1.91,p=0.14)と4)探索回数(F=1.16,p=0.33)には有意な主効果は認められなかった.
【考察】
結果1),2)より,物理的な違いの数が増えるほど見落とし数が増し,物理的違いの特に重さに見落とし数が多くなることが示唆された.これは,注意の転換に一定の限界があることや,視覚イメージへの変換の容易さや差の大きさの違いが影響した可能性が考えられた.結果3),4)から,物理的違い数が増えても探索方略は変化しないことが示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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