理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-017
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理学療法基礎系
視線移動時の脳血流酸素動態
―眼球運動と頭部運動の2条件間による比較―
信迫 悟志三鬼 健太玉置 裕久清水 重和森岡 周
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キーワード: NIRS, 視線, シミュレーション
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抄録

【はじめに】対面での視線方向認知は,眼球運動などの視覚情報を基に上側頭溝領域が担うことが判明している(Perrett 1985).しかしながら,ヒトは後方からの観察においても,相手の頭部運動から視線方向認知が行える可能性がある.これには自己の頭部運動をシミュレートしている(Naito 2002)可能性が高い.以前我々は,後方観察による視線方向認知に関与する脳領域を機能的近赤外線スペクトロスコピー(fNIRS)を用いて調査するとともに視線方向認知課題が身体運動のパラメータにどのような影響を与えるか調査した内容を,第10回アジア理学療法学会において報告した(Nobusako 2008).結果,自己の頭部運動による視線移動と後方観察による視線方向認知の両課題で前運動皮質領域の賦活が認められたことから,後方観察における視線方向認知には前運動皮質による運動シミュレーションの働きが関与することが示唆された.さらに視線方向認知課題が頸部運動器疾患患者の関節可動域制限および痛みに効果的に作用することが明らかとなった.しかしながら,前運動皮質近傍には前頭眼野や補足眼野などの眼球運動に関与する領域が存在することから,視線移動課題における前運動皮質の賦活が,眼球運動によるものなのか頭部運動によるものなのか疑問が残った.そこで本研究では,眼球運動と頭部運動の2条件での視線移動課題時の脳活動をfNIRSにより測定した.
【方法】対象は本研究に同意を得た右利きの健常成人8名とし,以下の2条件における脳血流酸素動態をfNIRS(FOIRE3000 島津製作所)にて測定した.条件1:眼球運動による視線移動課題(頭部固定).条件2:頭部運動による視線移動課題.タイミングプロトコールは安静5秒-課題30秒-安静5秒とした.サンプリングレートは1秒間に8Hzとした.抽出パラメータは,課題時の酸素化ヘモグロビン値(oxy Hb)とし,paired t-testにて比較した.なお本研究は本学研究倫理委員会にて承認されている.
【結果】条件1と比較して,条件2の両側前運動皮質に相当するチャンネルのoxy Hbの有意な増加が認められた(p<0.05).
【考察】条件2において両側前運動皮質の有意な賦活が得られたことから,この賦活が頭部運動を反映したものであることが明確となった.このことにより先行研究での後方観察による視線方向認知における前運動皮質の賦活は,自己の頭部運動のシミュレーションを利用して,他者の視線方向を認知する働きを表していることが強く示唆された.先行研究と本研究により,後方観察における視線方向認知時の前運動皮質の賦活は,自己の頭部運動のシミュレーションの働きを表しており,この心的作業が頸部運動器疾患患者の慢性疼痛や関節可動域制限に有効に作用することが明らかとなった.

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© 2009 日本理学療法士協会
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