理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-019
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理学療法基礎系
対象物をイメージした握り動作時の脳活動
山﨑 香織西上 智彦島岡 秀奉
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抄録

【はじめに】これまでの研究では,動作イメージを行ったときに補足運動野,帯状回前部,前頭前野背側部,運動前野などが活性化したことが報告されている(上條ら,2004).リハビリテーションの場面においても,運動イメージによって成績が改善することが報告され,運動イメージが有用であることが知られている.しかし,これまでの研究は運動を伴わないイメージについてのものが多く,運動を行いながらイメージする場合についての報告はない.そこで今回,対象物をイメージした動作での脳活動について近赤外光イメージング装置を用いて検証した.

【方法】対象は健常成人6名(男性3名,女性3名,年齢26.2±1.0歳)とした.全ての対象者に実験についての説明を行い,同意を得た.課題として,閉眼・椅子座位にて右手でスポンジを握る動作を行った.右肘より遠位をテーブルにのせ,尺側をテーブルに付け母指と他の4指を間に挟んだスポンジに接触しないように開いた状態を開始肢位とし,検者の合図でスポンジを約5秒間握り,開始肢位に戻す動作を5回行うようにした.コントロール課題では何も考えずに動作を行うように,イメージ課題では柔らかいもの(まんじゅう)を握っているところをイメージしながら動作を行うように指示した.脳血流酸素動態は近赤外光イメージング装置(fNIRS,島津製作所製,OMM-3000)にて測定した.プローブフォルダを左側の頭頂葉・側頭葉・前頭葉を覆うように装着し,プローブは国際10-20法を用いて設置した.脳活動量の指標として酸素化ヘモグロビン(OxyHb)を用いた.課題時の平均OxyHb量(mM・mm)から課題前の安静時の平均OxyHb量を差し引き,課題時のOxyHb量変化を数値化し,コントロール課題とイメージ課題とで比較した.統計処理には対応のあるt検定を用いた.なお,有意水準は5%未満とした.

【結果】コントロール課題よりイメージ課題では,左前頭前野領域でOxyHbが有意に少ない値を示した.

【考察】前頭前野は感覚系,運動系などと神経線維連絡を持ち,運動との関係で重要な部位である.Kawashimaらは,前頭前野は手指の運動時に活動すると報告している.右手指の運動時の左大脳皮質の脳活動を測定した今回の実験でも,コントロール課題では左前頭前野の活動が認められ,Kawashimaらの報告を支持する結果となった.しかし,対象物をイメージしながら握るというイメージ課題では左前頭前野の活動が有意に小さくなった.前頭前野は運動イメージの際に活性化すると報告されている.本実験のイメージ課題は,実際に動作を行いながら握る対象物をイメージしてもらうという課題であり,運動の有無という相違点があった.運動を伴うイメージと運動を伴わないイメージでは,異なる脳活動を呈する可能性が示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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