理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-028
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理学療法基礎系
刺激の少ない環境が成体期マウスの空間認知や海馬におけるGAP-43およびシナプトフィジンの発現に及ぼす影響
宮本 満杉岡 幸三荒川 高光三木 明徳
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抄録

【目的】環境的要因は動物の学習能力や脳の形態学的・生化学的変化をもたらす(Pragg, 2000).これらの所見は、環境的要因が脳の可塑性を導くことを示唆するものであり、リハビリテーション介入場面においても重要であるものと考えられる.しかしながらこのような効果は主に発育期の動物で示されているものの、成体期以降の動物においては高い効果があるとは報告されていない.そこで本研究では成体期マウスを用い、より多様な環境を考慮した飼育条件を設け、それが空間認知能力や海馬におけるGAP-43(軸索成長関連蛋白)およびシナプトフィジン(シナプス前終末蛋白)の発現にどのような影響を与えるかについて検討した.

【方法】12週齢のC57/BL6J雄性マウスを用いて以下の4群に分類した.1) 遊具などを置かない環境で群飼育した対照群(CT群):n=7.2) 様々な道具を備え,複雑な探索活動が可能な環境下で群飼育した豊かな環境群(EC群):n=6.3) ランニングホイ-ルのみを備えた環境で群飼育したランニング群(WR群):n=7.4) および小さな飼育箱で単独飼育した貧しい環境群(IP群):n=9.飼育期間は102日間とし、91日目から100日目にかけてモリス型水迷路で空間認知学習と、プローブテストによる記憶保持能力を調査した.飼育期間終了後は心臓の重量および心臓・体重比を測定するとともに脳を摘出し、パラフィン切片作製後に免疫組織化学的手法を用い、海馬におけるGAP-43およびシナプトフィジンの発現を濃度として定量的分析を実施した.尚、本研究は神戸大学の定める動物実験実施規則に従い実施した.

【結果】水迷路での空間認知学習においては、EC群とCT群がWR群やIP群に比し速やかに空間認知を獲得し、更にEC群はCT群よりもその傾向が顕著であった.またプローブテストでは、WR群がIP群よりも記憶保持能力が高いことを示した.心臓の重量についてはWR群がEC群よりも重く、心臓・体重比ではWR群がEC群やIP群よりも重かった.一方、海馬におけるGAP-43の発現は、網状分子層と苔状線維層においてIP群が他の3群に比し低く、苔状線維層ではEC群が最も高い発現を示した.またシナプトフィジンの発現においても、苔状線維層においてIP群がEC群やWR群に比し低く、EC群はWR群よりも高い発現を示した.

【考察】本研究の結果から非社交的で刺激の少ない貧しい環境下での飼育は動物の学習能力を阻害し、海馬のシナプス形成を低下させることが示された.一方、単調な運動のみの環境は心肥大をもたらすものの、空間認知学習に大きな効果が得られないことや、より多様な探索活動が可能である豊かな環境下での飼育が動物の学習能力や海馬のシナプス形成を高める可能性が示された.よって、リハビリテーション介入場面においても、例え成人の対象者でも社会的交流の少ない環境を避け、社交的かつ刺激に富む環境を提供していくことで脳の過疎的変化が期待される可能性がある.

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© 2009 日本理学療法士協会
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