抄録
【目的】降段練習は、重心の前方偏位化に伴い、支持脚の足関節背屈ROM練習と下腿三頭筋の筋力増強運動の働きがあり、正常歩行のankle rocker(AR)とforefoot rocker(FR)に影響を与えると考えられる.本研究の目的は、降段練習前後における立位・片脚立位・歩行時の足圧中心(COFP)位置の変化と前足部荷重量の変化を検討することである.
【方法】対象は健常者22名(男性13名、女性9名、平均年齢29.9)とした.測定にはF-scan(Nitta社製)を用い、サンプリング周波数100Hzで記録した.降段練習は10cm台を平行棒内に設置、段上での立位から上肢支持なしに、やや体幹前傾位を保持しながら一側下肢を4秒かけて踵から接床、対側支持脚は下腿三頭筋の遠心性収縮を促すために可能な限り段より踵を離床しないよう口頭指示した.その後、体の向きを変えず上肢支持のみで2秒かけて段上に戻る事とした.これを左右交互に繰り返し、計3分間の練習を施行した.測定項目は1)%COFP(足長比)・2)%前足部荷重率(足趾を除いた足部を4等分、最遠位部を前足部と仮定、同部の体重比)とした.立位・片脚立位・立脚相(SP)全般・さらにSPはARの起こる立脚中期(MS)・FRの起こる立脚後期(TS)について、1)2)を練習前後に左右それぞれ測定した.立位・片脚立位は動作が安定したところから5秒間、歩行は4歩目以降の3歩分の加算平均値をデータ解析に用いた.なお、MSとTSはランチョ・ロス・アミーゴ歩行分析法を基に、得られたSP時間を100%として時間の正規化を行い、フレーム抽出をした.統計はWilcoxonの符号付順位和検定を用い、有意水準5%未満とした.本研究は当大学倫理委員会で承認され、被験者に趣旨を説明し同意を得た後、施行した.
【結果】立位・片脚立位での各項目では有意差は認められなかった.歩行では左TS%前足部荷重率のみ有意差が認められた.
【考察】左右交互に同じ練習を繰り返したが、左TS%前足部荷重率のみ有意差が認められた.先行研究では、利き足が右で軸足が左である可能性が高いといわれている.実際、今回の被験者でも22人中20人が左軸足であった.左は支持脚としての機能があり、降段練習により左TS前足部支持が高まったと考えられた.しかし、MS・SP全般では同様の結果を得ることができなかった.この原因は、今回の被験者は関節可動域や筋力に問題がない健常人であり、多様な運動方略を備えていることから、設定した練習方法・降段時間ではCOFPの前方化や前足部荷重率の増加をほとんど見出せなかったと考えられた.この事から降段練習の効果を利き足・軸足の関係のみで述べることは難しく、また健常者において降段練習の効果を評価する場合には、その方法や降段時間の設定の再考、また利き足と軸足の特性の違いに注意を払う必要があると考えられた.