抄録
【目的】メタボリックシンドロームの指標として広く認知されてきた“腹囲”や“BMI”の増大は,食習慣や運動習慣の不良により生じるとされている.昨年度当院にて生活習慣改善への動機づけ支援セミナーを行った際,腹囲や身体組成と筋力等の運動機能との間に相関がみられた.今回,当院地域住民を対象として,体格,身体組成,運動機能および運動習慣を調査測定し,それらの関連性を検討した.
【方法】対象は,当院の地域活動である「健康祭り」への来場者のうちで筋力測定イベントへの参加者とした.調査項目は体格・身体組成として腹囲,体重,体脂肪率,BMIおよび血圧を測定した.運動機能は徒手筋力測定器による膝伸展等尺性筋力(屈曲角度90°),30秒立ち上がりテスト(CS-30),重心動揺計を用いた閉脚立位バランス能力を測定した.アンケートでは,運動習慣の有無および内容と頻度,生活習慣改善への行動変容ステージを調査した.調査が全て可能で,未成年等を除外した58名(59±17.4歳,女性40名,男性18名)を分析対象とした.調査項目間の関連性は,ピアソンの積率法を用いて有意水準を5%未満とし分析した.また,運動習慣の有無や頻度で分類し身体組成と運動機能を対応のないt検定を用いて群間比較した.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,対象者のプライバシーに配慮し説明と同意を得て実施した.
【結果】調査項目間の関連性は,男女において腹囲と膝伸展筋力%体重比(男性r=-0.597,女性r=-0.601)および収縮期血圧と膝伸展筋力%体重比(男性r=-0.511,女性r=-0.465),CS-30(男性r=-0.723, 女性r=-0.521)に有意な負の相関を認めた.女性において,収縮期血圧と閉眼時総軌跡長(r=0.434,),矩形面積(r=0.415),外周面積(r=0.425)に有意な正の相関が認められた.運動習慣の有無と身体組成や運動機能との間に有意な関連は認めなかった.女性において,1回30分以上の運動を週3日以上の実施有無での比較では,膝伸展筋力%体重比,CS-30,体重,BMI,体脂肪率に有意な差(p<0.05)を認めた.
【考察】生活習慣病指標の腹囲や血圧と,下肢筋力やバランス能力との負の相関が認められた.メタボリックシンドロームでは,血管性や内部疾患だけでなく運動機能低下をきたす可能性が示唆された.また,1回30分以上の運動を週3回以上実施することが,身体組成や運動機能の改善を期待できると考えられた.
【まとめ】運動機能の低下は整形外科疾患やQOLとの関係も証明されており,内臓脂肪型肥満が2次的障害である変形性関節症,ロコモティブシンドロームにも繋がることに視点を拡げる一知見となりうる.