理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-055
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理学療法基礎系
骨盤前傾運動が上肢挙上運動に及ぼす影響
平山 恭子西口 知宏姫野 太一今滝 真奈宮沢 将史藤本 剛至岡﨑 加代子岡田 亜美和嶋 郁子丸山 貴資傍島 聰
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抄録

【はじめに】
肩関節疾患による関節機能障害がなく、上肢挙上制限がある高齢者の多くは骨盤後傾に伴い脊柱が後弯している.上肢挙上と肩甲骨の報告はあるが、上肢挙上と骨盤運動との報告は少ない.そこで今回、骨盤前傾運動が上肢挙上にどのような影響を及ぼすかを検討したので報告する.

【対象】
当院外来通院患者で見かけ上脊柱後弯変形を認め、座位にて上肢挙上困難な男女17名(平均年齢71.9±6.7歳)を対象とし、肩関節疾患による関節機能障害がある者は除外した.なお、対象者には研究の主旨を説明し、同意を得た上で検査測定を行った.

【方法】
(A)骨盤最大前後傾角度 (B)座位肩関節屈曲角度(上肢挙上角度) (C)骨盤最大前傾時肩甲骨下方傾斜角度 (D)上肢挙上時肩甲骨角度 (E)腹筋力・背筋力をそれぞれ測定した.統計処理にはピアソンの相関を用いて検討し、有意水準を5%とした.
肩甲骨下方傾斜角度はMITSUMOTO製ANGLE FINDER、筋力はアニマ社製ハンドヘルドダイナモメータを用いて測定した.また、脊柱可動性の及ぼす影響を検討するため、A群:脊柱伸展制限あり(壁に殿部接地した立位で後頭部が壁に接地困難)、B群:脊柱伸展制限なし(後頭部壁に接地可能)に分け、2群間比較をt検定を用いて行った.

【結果】
相関を認めたのは 1.骨盤最大前傾角度と(a)上肢挙上角度( r=0.74 p=0.0009 )・(b)上肢挙上時肩甲骨角度( r=-0.51 p=0.0439 )、2.背筋力と(a)最大骨盤前傾角度( r=0.52 p=0.0382 )・(b)上肢挙上角度( r=0.69 p=0.0028 ) 、3.上肢挙上角度と上肢挙上時肩甲骨角度( r=-0.74 p=0.0011 )であり、また、2群間比較においてB群は背筋力( p=0.0062 )・骨盤最大前傾角度( p=0.0292 )・上肢挙上角度( p=0.0020 )・上肢挙上時肩甲骨角度( p=0.0246 )がA群より有意に大きかった.

【考察】
肩関節機能障害がなく上肢挙上制限がある高齢者において、骨盤をより前傾位に保持することにより上肢挙上角度が大きい傾向がみられた.これは、骨盤前傾によって脊柱の伸展が起こることで胸椎レベルにおける肩甲骨が正常に近い状態(下方傾斜=下制+内転+下方回旋)となり、上肢挙上がしやすくなるためである.しかし、肩甲骨の下方傾斜は脊柱伸展に依存するため限界がある.また、脊柱可動性の有無による2群間比較において有意差がみられた項目はすべて上肢挙上角度と相関を認めた.このことから脊柱伸展方向への可動性は骨盤前傾運動が上肢挙上に影響を及ぼす大きな要因であると考えられる.さらに、背筋力も各項目と相関を認めており、上肢挙上における要因の一つであると考えられる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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