抄録
【目的】
反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation:rTMS)による脳卒中片麻痺患者の運動機能回復は,高頻度rTMSによって損傷側運動皮質の興奮性を増加させる方法と,低頻度rTMSによって非損傷側運動皮質の興奮性を減少させる方法が報告されている.このことは脳卒中により生じた両側運動皮質間での興奮性のアンバランスをrTMSで調整できる可能性を示唆している.我々は,第43回の本学会において,高頻度rTMS後に刺激対側運動皮質の興奮性が低下することを運動関連脳電位(movement related cortical potential:MRCP)により記録し,高頻度rTMSが運動皮質間の興奮性を変化させうる可能性を報告した.今回は,片側運動皮質への低頻度rTMSが,左右の手運動に関連した運動皮質の神経活動に与える影響についてMRCPを用いて検討した.
【方法】
対象は右利き健常成人10名(23-32歳)とし,全被験者に実験の目的,危険性等を説明して同意を得た.
rTMSは,左一次運動野の右手関節背屈筋のhot spotに8の字コイルを用いて刺激した.刺激強度は安静時運動閾値の100%,0.5Hzで300発のrTMSを施行した.このrTMS前後において4~6秒に1回のすばやい随意的な左右の背屈運動に関連する脳電位をそれぞれ記録し,運動野近傍のCz,C3,C4における最大振幅と出現時間を求めた.解析区間は運動開始前の3500msから開始後500msとし,rTMS前後におけるそれぞれを対応のある差の検定を用いて比較した.有意水準は5%未満とした.
【結果】
右手背屈に伴うMRCPの最大振幅は,C3(P<0.01),C4(P<0.05), Cz(P<0.05)のすべてにおいて有意なrTMS後の低下を示した.左手背屈におけるMRCP最大振幅ではC4(P<0.01), Cz(P<0.01)において有意な上昇を示し,MRCPの開始時間は,C4(P<0.05), Cz(P<0.05)において早期化を示した.
【考察】
左一次運動野への0.5Hzの低頻度rTMSは刺激同側の運動皮質興奮性を低下させた.また反対側へは大脳半球間抑制により興奮性を上昇させることが示され,運動準備電位の早期化は運動皮質興奮性の上昇によるものと考えられた.以上より,低頻度rTMSもまた運動皮質間の興奮性を変化させうることができ,運動機能回復の補助として使用できる可能性を示唆している.