理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-415
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骨・関節系理学療法
膝蓋上嚢の癒着予防
―膝蓋腱部分断裂の2症例における膝伸展位固定期間の理学療法―
橋本 貴幸村野 勇中安 健岡田 恒夫渡邊 敏文
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抄録

【はじめに】
膝蓋腱部分断裂を呈し観血的整復固定術を施行した2症例について、膝関節伸展位固定期間中の膝蓋上嚢に対する癒着予防を実施した.理学療法および結果について考察を含め報告する.
【症例紹介】
症例1は、30歳台の男性である.バイクによる単独事故で転倒受傷した.診断名は、右膝蓋骨開放骨折(膝蓋骨外側下端と膝蓋腱付着部の剥離骨折)で同日縫合術施行となった.
症例2は、10歳台の男児である.入浴時ドアのガラスに膝をあて受傷した.診断名は、右膝蓋腱部分断裂で、翌日縫合術施行となった.
また、2症例は症例報告の主旨を説明し、同意を得ている.
【運動処方】
術後理学療法開始日より、ニーブレース装着時はSLRおよび1/3から1/2荷重 、ニーブレース除去時は膝蓋骨モビライゼーション、セッティングが許可された.術後14日目より屈曲90°までのROM 、ニーブレース装着での2/3荷重から全荷重となり、数日後歩行が安定した時点よりニーブレースが除去された.術後28日前後でROMは制限なく許可された.
【膝蓋上嚢に対する理学療法】
1、膝蓋上嚢・中間広筋の徒手的持ち上げ操作(Lifting off)
2、SLRを利用したパテラセッティング
3、ニーブレース下SLR
4、立位膝伸展運動(立位・立位体幹軽度屈曲位)
【結果】
2症例は、術後14日目の屈曲90度許可時点において同日許可可動域を得た.術後1ヶ月時点においては、膝伸展不全(以下lag)は改善し、屈曲可動域は、症例1では130°、症例2では全可動域を獲得した.
【考察】
2症例は、膝蓋腱部の損傷および部分断裂で、観血的整復固定術を施行している.術後2週間は、修復部を保護するため膝関節伸展位でのブレース固定となった.術後2週の期間は、癒着は完成していないものの、動物実験においては不動期間1週目より可動域制限を認めるとの報告もあり、更なる不動の長期化は癒着、瘢痕、拘縮が危惧される.そのため、伸展位固定中においても可能なアプローチが重要となる.我々は、超音波画像診断装置により正常な膝関節の軽い自動屈曲伸展運動における膝蓋上嚢の動きの傾向として、屈曲時には扁平化と横への広がりをもった柔軟性を、伸展時には上方への浮き上がり移動と柔軟性を確認している.また、軽いパテラセッティング、セラピストによる徒手的持ち上げ操作は、伸展運動時の膝蓋上嚢の動きを再現していることを確認した.膝関節伸展機構損傷において問題となるのは、lagおよび膝関節屈曲制限で、その予防には膝蓋上嚢の機能を維持する事が重要である.理学療法では、膝蓋上嚢、中間広筋を徒手的持ち上げ操作にて柔軟性を引き出し、その後筋収縮運動に伴う膝蓋上嚢の動きの引き出しと同時に筋力維持を図ることで結果に示す成績となった.膝蓋上嚢に対する理学療法は、固定期間の治療として、また固定解除後の膝関節機能の改善に有効な1つの手段と考えられる.

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© 2009 日本理学療法士協会
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