抄録
【目的】食道癌根治術は侵襲が大きくなるためその軽減を目的に当院では手術の低侵襲化(胸腔鏡・腹腔鏡補助下)と周術期にステロイド剤または好中球エラスターゼ阻害薬が投与され、周術期リハビリテーションが実施されている.今回当院にて完全鏡視下(胸腔鏡・腹腔鏡補助下)により食道癌根治術が施行された症例の術後リハビリテーションと呼吸器合併症について検討したので報告する.
【方法】対象は、2007年11月から2008年9月までに当院にて完全鏡視下により食道癌根治術が施行され、周術期リハビリテーションを実施した14例(男性11例、女性3例)とした.全例において周術期にステロイド剤または好中球エラスターゼ阻害薬が投与され他の周術期管理は同一であった.全例とも術前(呼吸訓練、起居動作指導)、術後翌日から退院前日(呼吸訓練、排痰、歩行訓練、自転車エルゴメーター)まで理学療法を実施した.術後より早期離床を目的に周術期リハビリテーションを行っており、必要に応じて排痰援助や指導を行った.検討項目として、自己排痰の有無、反回神経麻痺の有無、歩行開始日、術後呼吸器合併症の有無をあげカルテより後方視的に検討した.
【結果】自己排痰は全例可能であり、反回神経麻痺は1例に認められたが軽度で一時的なものであった.歩行開始日2.8±0.7日、術後呼吸器合併症は2例に認められ、それぞれ術後4日目、5日目に肺炎を生じていた.
【考察】当院では食道癌根治術を行った症例に対して、周術期管理の1つとしてステロイド剤、好中球エラスターゼ阻害薬の投与がなされ、周術期リハビリテーションを実施している.これらの薬剤の投与は、術後の炎症を緩和させ呼吸・循環動態を早期から安定させる効果があるとされている.完全鏡視下での術式は、低侵襲であるため咳嗽時を含め活動時の疼痛の軽減、炎症の緩和、リンパ郭清を行う際の術野が明確になるメリットがある.その結果として、咳嗽時疼痛が軽度で、全例術後翌日より自己排痰が可能であった.また呼吸・循環動態の早期からの安定により、離床を早期より積極的に実施できた.当院ではこのような周術期管理下における術後の理学療法は、早期離床と深呼吸の奨励を中心に実施した.食道癌根治術における完全鏡視下での術式は、症例への負担を軽減し周術期リハビリテーションをより効率的に進められる一つの要因ではないかと考えられる.呼吸器合併症は2例において認められたが、何れも誤嚥が原因の嚥下性肺炎であり、1例は反回神経麻痺を伴っていた.今後の課題として、理学療法の観点より食道癌根治術後の嚥下障害へのアプローチの必要性が示唆された.