理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O1-039
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一般演題(口述)
等尺性収縮を用いた母指対立運動の運動イメージが対側F波に与える影響
鈴木 俊明谷埜 予士次米田 浩久高崎 恭輔谷 万喜子鬼形 周恵子山口 紀子浦上 さゆり
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抄録
【目的】我々は先行研究において、等尺性収縮を用いた母指対立運動の運動イメージは同名筋に対応した脊髄神経機能の興奮性を増加させることをF波により報告した。今回は、等尺性収縮を用いた母指対立筋の運動イメージが対側母指対立筋の脊髄神経機能の興奮性に与える影響をF波にて検討した。
【方法】対象は健常者8名、平均年齢34歳とした。被検者を背臥位とし、左側正中神経刺激によるF波を母指球筋より導出した(安静試行)。F波刺激条件は、刺激頻度0.5Hz、刺激持続時間0.2ms、刺激強度はM波最大上刺激、刺激回数32回である。次に、F波検査側と反対側の右側母指と示指によりピンチメータを用いて最大の50%のピンチ力で対立動作を練習させた。その後、センサーは軽く把持した状態で50%収縮をイメージさせた試行(センサー把持運動イメージ試行)とピンチメータのセンサーを把持しないで運動イメージをおこなう試行(センサーなし運動イメージ試行)で左側母指球筋よりF波を測定した。F波測定項目は、出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時とした。
【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則および追加原則を鑑み、あらかじめ説明された本実験の概要と侵襲、および公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意の得られた被験者を対象に実施した。
【結果】右側でのセンサー把持運動イメージ試行における左側の振幅F/M比は、安静試行と比較して増加した(t-test p<0.01)。出現頻度、立ち上がり潜時はセンサー把持試行と安静試行での変化は認めなかった。右側でのセンサーなし運動イメージ試行では、左側の出現頻度、振幅F/M比、立ち上がり潜時ともに安静試行と比較して変化を認めなかった。
【考察】運動イメージに関する研究は、経頭蓋磁気刺激を用いた運動誘発電位やSPECTなどを用いた研究では、運動イメージは大脳皮質レベルの興奮性は増加させるといわれている。しかし、運動イメージが脊髄神経機能の興奮性に与える影響に関する研究では、運動イメージにより脊髄神経機能の興奮性が増加するという報告と変化ないとの報告がある。Kasaiらは、運動イメージにより経頭蓋磁気刺激を用いた運動誘発電位の振幅は増加するがH波振幅は興奮しないと報告している。Kimura Jの研究グループは、一定時間の安静状態からの運動イメージを実施した際のF波を検討しており、運動イメージでは安静時と比較してF波振幅が増大したと報告している。我々は、運動イメージにおける脊髄神経機能の興奮性の指標にはH波よりF波が適していると考えている。そこで先行研究では、母指と示指での対立運動の運動をイメージ中の運動イメージと同名筋よりF波を導出した。その結果、運動イメージ中にF波出現頻度、振幅F/M比は増加した。これは、母指と示指の対立運動の運動イメージで母指球筋に対応する脊髄神経機能の興奮性が増加することを示唆していると報告した。本研究では、運動イメージが運動イメージの同名筋だけでなく、対側の同名筋の脊髄神経機能の興奮性も変化させるか否かを検討した。本研究結果より、等尺性収縮を用いた運動イメージは、運動イメージを実施した対側の脊髄神経機能の興奮性を高める可能性を示唆したが、その効果は運動イメージの方法により異なることがわかった。具体的には、運動イメージをおこなう際には、イメージする運動の運動条件にできるだけ類似する方法で運動イメージ課題を実施することが重要であることがわかった。
今回の結果から考えられる神経機序は定かではない。先行研究において運動課題であるピンチメータのセンサーを把持しての運動イメージはセンサーを把持しない場合と比較して運動イメージ側での脊髄神経機能の興奮性が増加したために、センサー把持での運動イメージは上位中枢からの下行性促進線維の影響が運動イメージ側だけなく対側にも影響している可能性が考えられる。今後は、運動イメージで用いた等尺性収縮の課題の条件を変更させることで、運動イメージが対側の脊髄神経機能の興奮性を効果的に変化させる条件を検討していきたいと考えている。
【理学療法学研究としての意義】本研究より、脳血管障害片麻痺患者への麻痺側機能へのアプローチとして、非麻痺側における運動イメージが効果をもたらす可能性がある。しかし、その方法は、運動課題の条件に近い環境で非麻痺側の運動イメージをおこなうことが大切であることがわかった。本研究を継続しておこなうことで、脳血管障害片麻痺患者に対する運動イメージを用いた新しい運動療法が展開できると考えている。
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© 2010 日本理学療法士協会
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