理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O2-063
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一般演題(口述)
ビデオゲームを用いたバーチャル・リアリティ訓練の可能性
川井田 豊福留 清博(PhD)上嶋 明(PhD)西 智洋松下 寿史川井田 繁
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抄録

【目的】
介護が必要になった原因について,平成19年度の国民生活基礎調査によれば,骨折・転倒が9 %を占める.同年の転倒・転落事故死者数6951人からすれば転倒の問題はより深刻であろう.転倒予防のために,リハビリテーションの枠組みの中では,筋力増強訓練,バランス訓練が行われてきた.しかしながら,これらの既存の訓練は単調で飽きやすいという側面を持つ.飽きずに継続する要因の一つが楽しみであるという点に着目すると,ビデオ・ゲームには訓練としての可能性がある.その中でも,Nintendo Wiiでは,高齢者にも操作が容易で体幹の移動を利用するマンマシンインターフェイス,バランスWiiボード(Wiiボード)を活用できる.そこで今回,我々は,このインターフェイスを利用したバーチャルリアリティ(VR)訓練がバランス訓練としての役割を果たすことができるか,転倒予測因子である片足立ち(OLB)時間を含む運動機能面からパイロット研究を遂行した.
【対象】
本院に運動器リハビリテーションのため通院される患者6名(平均年齢75±9.6歳)を被験者とした.なお,安全に対する配慮から,変形性関節症(股・膝・足関節),認知症患者,急性期疼痛患者およびペースメーカー装着者については予め対象から外した.
【方法】
被験者に通常の運動器リハビリテーション(筋力訓練,ROM訓練,バランス訓練等,1回あたり20分,週2回)を施し,1ヶ月後,加えてVR訓練(1回あたりヘディング3ゲーム,コロコロ玉入れ2ゲームの計5ゲーム)を1ヶ月施し,VR訓練前後の運動機能を評価した.VR訓練のみとしないのは,倫理的配慮である.VR訓練では,ゲームをプロジェクターからスクリーンに81 cm × 61 cm サイズで映写し,被験者にはWiiボード上で音声映像刺激に対して反応していただいた.展開の速いヘディングゲームの場合,言葉によるフィードバックも被験者に与えた.VR訓練時には足圧中心位置も計測した.評価項目は,片足立ち(OLB)時間,Timed Up and Go(TUG)時間,10 m最大歩行(10 m-MG)速度, Modified Functional Reach(M-FR)距離とした.介入前後の統計解析にはエス・ピー・エス・エス社製SPSS Statistics 17.0を用い,有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
予め,説明や同意に関する方法を含む本研究計画について鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の審議を受け承認を得た.その上で,被験者に,説明文書を用いて書面および口頭で,研究の目的他,参加が強制ではないこと等を説明した.被験者に同意が得られた場合のみ,同意書に署名を得て研究に参加していただいた.
【結果】
1ヶ月のVR訓練介入後,OLB時間は13.1±17.1秒から39.8±37.5秒に延長, TUG時間は12.8±4.4秒から10.9±5.6秒と時間の短縮,10 m-MG速度は時速3.5±1.2kmから4.3±1.3kmに上昇, M-FR距離は28.4±7.0cmから33.6±9.9cmと距離の延長がみられた.これらの結果を用いノンパラメトリックなWilcoxonの符号順位検定を行った結果,M-FR距離を除く,OLB時間,TUG時間,10 m-MG速度において介入前後で有意差が認められた.
【考察】
僅か一ヶ月の介入にも関わらず,OLB時間,TUG時間,10 m-MG速度から判断されるように運動機能を改善できた.ただし,足底感覚障害が疑われる被験者ではOLB時間の改善が認められなかった.おそらく,運動学習における感覚フィードバックが阻害された可能性があり,VR訓練の限界を示唆している.また,ゲーム運動中に同時測定した足圧中心位置の変化量は,興味深いことに,高齢者には難しい課題と予想されたヘディングゲームのみ有意に距離が増した.今回の研究デザインでは,通常の運動器リハビリテーションとVR訓練の効果を分離して議論できないが,いずれにせよ,転倒予防の観点から,VR訓練をバランス訓練の選択肢の一つとしてリハビリテーションに導入することは極めて有効であることが示唆された.
【理学療法研究としての意義】
より良いリハビリテーションを患者に提供することは,理学療法士の使命である.そのために,理学療法士が,ひとりひとり技術向上に励んでいる.それに留まることなく,もし,新しい訓練法を開発し提案できるならば,ひとりではなく世界中の理学療法士への波及効果を生む.今回提案したVR訓練は,検証しなければならない項目が多々残されているが,3項目で有意差がみられたことはVR訓練のパイロット研究として,十分役割を果たしたと考える.

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© 2010 日本理学療法士協会
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