理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-056
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一般演題(ポスター)
変形性膝関節症者の階段降段時の運動力学的特徴
井川 達也勝平 純司丸山 仁司
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抄録

【目的】膝OA者における階段降段困難の要因を客観的に解明するため,バイオメカニクス手法を基に三次元動作分析装置と床反力計を用いて膝OA者の階段降段動作における運動学・運動力学的特徴を明らかすることを目的とする.
【方法】対象は腰部および下肢に既往のない健常高齢者8名と膝OA者8名とした.膝OAはX線像で膝関節内側関節裂隙の狭小化や骨棘形成が認められ,15°以上の膝関節屈曲拘縮が認められない肢とした.また膝OAの重症度判定にはKellgren-Lawrence分類を用い,gradeII~IIIの肢を対象とした.運動学,運動力学データ計測には,床反力計(AMTI社)6枚とサンプリング周波数120Hzの赤外線カメラ12台を用いた三次元動作解析装置(VICON612)を使用した.木藤らの方法を参考に,直径14mmの赤外線反射マーカー34個を各被験者の身体に貼付した.また5段の計測用階段(蹴上160mm,踏面300mm)を中央で分離し,床反力形上に左右別々に接地することで,動作中の床反力を左右の下肢で分けて計測することを可能にした.降段動作は各被験者の自由速度にて行い,十分に練習した後に,患側および利き足の足趾接地より一歩行周期を計測した.
【説明と同意】研究の実施に先立ち,国際医療福祉大学の倫理審査委員会にて承認を得た.なお,全ての被験者には予め本研究の目的と内容を説明し,文書による同意を得た後に計測を行った.
【結果】1.関節角度
足関節底背屈角度はnormalと膝OA者に違いはなかった.しかし膝関節は立脚初期に膝OA者はnormalに比べ,屈曲角度が小さい傾向にあった.さらに股関節では足・膝関節に比べ一歩行周期を通して可動域が小さく,立脚初期にnormalは僅かに屈曲する一方で,膝OA者は僅かに伸展するという違いがみられた.
2.関節モーメント
足関節底背屈モーメントの波形は両者で近似しており,大きさに違いは見られなかった.しかし膝関節では立脚初期の屈曲モーメントが膝OA者で大きく出現し,その後の伸展モーメントが僅かにしか出現しなかった.立脚後期の伸展モーメントには違いは見られなかった.また外反モーメントは膝OA者で大きく出現した.股関節屈伸モーメントは足関節と同様,波形は両者で近似しており,大きさに違いは見られなかった.
3.パワー
足関節は立脚初期にnormal・膝OA者ともに負のパワーを示し,立脚後期に正のパワーを示した.膝関節はnormalでは立脚初期の間で正から負のパワーへと大きく変化したが,膝OA者では負のパワーを示さなかった.立脚後期ではnormal・膝OA者ともに負のパワーを示した.股関節は足・膝関節に比べ一歩行周期を通してnormal・膝OA者ともに大きな値を示さなかった.
【考察】階段降段時の力学的課題は重心を前下方に移動させ,高さの異なる接地面で荷重を受け渡すことである.この場合,両脚支持期がそれにあたり,先導脚での制動は重要な役割を担っている.
立脚初期に着目すると,normalではつま先接地(TC )後,最初に足関節底屈筋群の遠心性収縮が生じ,次に膝関節伸展筋群の遠心性収縮が生じる.立脚初期では,これらにより重心の下方向の制動を行っている.特にTC後に膝関節が瞬時に屈曲し,伸展筋群による遠心性収縮が出現することが重要になると考えられる.しかし,膝OA者はTC後の膝関節の屈曲角度が小さく,膝関節伸展筋群による遠心性収縮が出現しにくく,制動の役割をほぼ足関節に依存した状態で立脚初期を終えている.そのため,立脚初期で膝OA者は十分に制動を掛けることが困難となり,階段降段動作が困難になっていると考えられる.
膝OA者の歩行分析に関する木藤らの研究では,足底接地から荷重応答期までに膝関節がほとんど屈曲せず,伸展位に保持する傾向にあると報告している.階段でも歩行と同様のことが生じており,重心制御の観点から考えると,重心の前方移動の歩行に加えて,重心の下方移動が生じる階段降段では,この立脚初期の膝関節屈曲の減少が膝OA者の階段降段動作を困難とする主要因であると考えられる.さらに,膝OA者の膝関節伸展モーメントおよび伸展筋群の遠心性収縮の低下は地面からの衝撃吸収を困難にするため,膝関節に直接的に負荷を与えることになる.一方,同時期に膝OA者の内反アライメントにより,骨や靭帯などの受動組織による膝関節の外反モーメントは増加している.これは膝関節伸展モーメントにより吸収できない負荷が膝内外側の骨や靭帯に悪影響を及ぼしていることを示唆している.
【理学療法学研究としての意義】現在,膝OAに対する理学療法では様々な練習が行われている.膝OA者は大腿四頭筋筋力が弱化しているという数多くの報告から,大腿四頭筋の筋力増強練習は臨床でよく見かける光景である.本研究結果からも膝OA者にとって大腿四頭筋筋力増強は有益なプログラムであることが示唆された。

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© 2010 日本理学療法士協会
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