理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-064
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一般演題(ポスター)
水中抵抗を用いた膝周囲筋トレーニングの筋電図学的特性
中村 睦美水上 昌文
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抄録
【目的】水中抵抗を用いた膝周囲筋トレーニングは,粘性抵抗,浮力や流水などの水の物理的特性の影響を受けるため,陸上で一般に用いられている重錘や等速性機器を用いたトレーニングと比較し,運動域後半で拮抗筋活動が大きく働くと考えられる。一方,スクワットやレッグプレスなどの閉鎖運動連鎖トレーニング(以下CKC)では,多関節運動連鎖により拮抗筋活動が多くみられると報告されている。しかし,これまで水中抵抗を用いたトレーニングにおける筋活動を,等速性機器や重錘トレーニング,CKC時の筋活動と比較した報告はみられない。本研究では,水中抵抗を用いた膝周囲筋トレーニングの有用性を,陸上におけるトレーニングと比較し主動筋と拮抗筋の筋活動の関係から検討することを目的とした。
【方法】健常成人男性11名(平均年齢24.6歳)を対象とし,水中での運動課題(以下水中)として水中端座位での膝屈曲90°から伸展位までの屈伸反復運動を最大努力下で実施した。なお,水位は臍部から胸部の間とした。陸上での比較課題として,180°/sで等速性機器(CYBEX6000)を用いた膝関節屈伸反復運動(以下等速性),10回/分の速度で5.0kgの重錘負荷を用いた屈伸反復運動(以下重錘),スクワット運動,レッグプレス運動を行った。各課題とも施行数は5回とした。課題実施中の内側広筋,外側広筋,大腿直筋,大腿二頭筋,半腱様筋の活動電位は電極部を防水処理した表面筋電計を,膝関節角度は電気角度計を用いて計測を行った。得られた筋電波形は,交流実効値(RMS)により平滑化し,最大随意収縮にて正規化を行った。解析は反復運動を伸展相,屈曲相に分け,さらに各相を初期,中期,後期,終期の4区間に分けた。また時間軸規格化のために,各相の所要時間を100ポイントとして再構築した。統計解析にはSPSSver.16.0を用い,筋活動量(%RMS)に対する筋の種類と運動区間,また運動課題と運動区間の要因による影響を明らかにするために二要因分散分析にて検討した。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】研究協力者には事前に研究の主旨を説明し,十分理解を得た上で本研究の参加について文書による同意を得た。研究計画は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】水中での筋活動は,伸展相,屈曲相ともに運動開始時には主動筋の活動が大きいが徐々に小さくなり,運動半ばには主動筋と拮抗筋が同程度の活動となり,運動後半には拮抗筋が主動筋の活動より大きくなった。各運動課題における拮抗筋の活動量を比較した結果,水中では伸展相後期と終期に他の4課題に対して有意にハムストリングの活動が高く,屈曲相後期には,重錘と等速性に対して有意に大腿四頭筋の活動が高くなった。屈曲相終期には水中と他の4課題の間には有意差はみられなかった。
【考察】近年,膝周囲筋トレーニングにおいては,主動筋だけでなく,主動筋と拮抗筋の協調的活動を利用した運動が重視されている。膝疾患患者において,大腿四頭筋とハムストリングを共に収縮させることで膝関節を安定させる効果が期待できる。本研究の結果により,水中抵抗を用いたトレーニングは,陸上で一般に行われている膝周囲筋トレーニングと比較して,運動域後半で高い拮抗筋活動がみられる事が明らかになった。水中運動では,運動初期,中期において水の抵抗に対する主動筋の強い活動が必要となるが,運動域後半となるに従って運動方向への水流による補助力が働き,主動筋が活動しなくとも運動が可能となる。一方,拮抗筋は運動の後期,終期になると,水流によって他動的に急激に伸張されるため伸張反射による筋収縮が起こり,さらに運動方向を切り換えるため活動が大きくなり,運動を止める働きをしていると考えられる。日常生活において大きな外力が加わったり,急速な関節運動が起こる際には,運動の最終可動域で筋や腱を急速に伸張したり関節に大きな負担を加えることになり,変形を進めたり傷害を発生する危険性が内在する。水中では最終可動域における強い拮抗筋の活動が生じるため,水中トレーニング自体が関節への負担が少なく,かつ主動筋とともに拮抗筋収縮を促すことを目的としたトレーニングとして,他の陸上トレーニングよりも適していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究では,水中抵抗を用いたトレーニングが,特に運動の可動域後半での拮抗筋活動を高め膝の安定性に寄与することで,膝疾患患者に対する運動療法として有用であることが示唆された。
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© 2010 日本理学療法士協会
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