抄録
【目的】エルゴメーターは、幅広い年齢層や様々な用途に応じて利用が可能なため、臨床で使用頻度の高い訓練機器である。エルゴメーター駆動時には歩行類似の筋活動を認めることやエルゴメーター訓練後に歩行類似の下肢筋活動の再建にも有効とされており、様々な疾患でのリハビリテーションにも応用されている。利便性の高いエルゴメーターだが、ペダル負荷量の設定に関しては個人の状況や状態などにより設定されているのが現状である。また、ペダル負荷量の違いによる筋活動様式の変化を検討した研究報告は少ない。そこで今回われわれは、ペダル負荷を一定にすることが可能なストレングスエルゴを用いて、ペダル負荷量の違いによるペダリング時の下肢筋活動様式の変化を検討したので報告する。
【方法】対象は健常成人8名(男性5名、女性3名;年齢31.7±3.5歳、身長167.0±9.5cm、体重62.8±12.3kg)とした。エルゴメーターは三菱電機エンジニアリング社製のストレングスエルゴ240(S-ergo)を使用した。S-ergoでの座位姿勢は背もたれ角度100°、シート位置は下死点にて膝屈曲30°として設定した。S-ergoのアイソトニックモードによる筋力測定(速度50rpm、10回転)にて最大筋力を測定し、その最大筋力の1、5、10、20、40%のペダル負荷量でのペダリングを行った。筋電図は日本光電社製の多チャンネルテレメーターシステムを使用した。筋電図は、右の大腿直筋(RF)、内側広筋(VM)、内側ハムストリングス(MH)、前脛骨筋(TA)、内側腓腹筋(GM)、ヒラメ筋(Sol)にて記録した。角度変位はS-ergoの角度計にて計測した。得られた筋電波形と角度計のデータはPower Labを用いて収集し、PC上へ保存した。筋電図の解析は15回転分のデータをMATLAB R2006bで加算平均し、1周期分の各筋活動量を積分値で算出した。またペダリング1周期中の上死点となる股関節最大屈曲位をゼロ地点として、90°ごとに伸展相(1)、伸展屈曲相(2)、屈曲相(3)、屈曲伸展相(4)の4つの相(phase)に分け、各phaseの筋活動量を積分値で求めた。各phaseの筋活動量は1周期分の総筋活動量を100%としてその割合で換算した。統計処理は、負荷量を効果要因とした一元配置分散分析と多重比較のTukey検定を行い、ペダリング1周期中のphaseごとの筋活動量の割合と各phase内における筋活動量の割合を比較検討した。なお、有意水準は5%以下を有意差ありとした。
【説明と同意】対象者には実験開始前に本研究の目的と方法を説明し、十分な理解と同意を得た上で実験を施行した。
【結果】ペダリング1周期中における筋活動のピークを示すphaseは、VM、GM、solにおいては負荷量変化に関わらず一定であったが、RFではphase3から4、TAではphase1から3へと負荷量の増大によりピークを示すphaseが変化した。また、各phase内における筋活動の割合は、MHにおいてのみ負荷量に関わらず有意な差は認められなかった。
【考察】ペダル負荷量に応じたペダリング駆動時の筋活動様式には、筋による違いを認めた。RFとTAの活動様式に関しては、ペダル負荷量の増加によるペダル引き上げ動作が増大したため、ピーク筋活動量の割合が推移したと考えられる。訓練においては、ペダル負荷量増加による標的筋の筋活動様式の変化を考慮する必要があると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】ペダリング時の筋活動様式に関しては、健常人や中枢神経疾患を含め近年多くの報告があるが、負荷量による筋活動様式の違いを検討した報告は少ない。負荷量の変化による各phaseでの筋活動の変化を理解することにより、より効果的な治療が可能になると考えられる。今後は、さらに疾患別の検討を行い、疾患別の違いを検討していきたい。