理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O3-057
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一般演題(口述)
座位,腹臥位における体幹伸展動作時の筋活動の比較
篠原 博浦辺 幸夫山中 悠紀秋本 剛野村 真嗣大林 弘宗山本 竜
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抄録

【目的】高齢者の円背などの不良姿勢は歩行能力の低下を惹起し,ADL能力やQOLにも大きな影響を与える(坂光ら 2007,Miyakoshi 2007).そのため,不良姿勢を呈する高齢者の運動療法には体幹伸展筋力を維持,改善することが重要である.
一般的には,セルフエクササイズとして体幹伸展動作を行う場合,安全性や簡便性などの理由から,腹臥位で上体反らし運動を行うことが多い.しかし,骨粗鬆症による圧迫骨折などで過度な脊柱後彎を有する高齢者では腹臥位をとることが困難な場合があり,その場合,筆者らは座位でのいわゆる「背伸び運動」を使用することを提唱してきた(篠原ら 2009).しかし,背伸び運動を行う際に,脊柱起立筋群がどの程度活動しているかは十分検討されていない.
本研究では,座位で行う背伸び運動と腹臥位で行う上体反らし運動における脊柱起立筋群の活動の違いを比較し,overloadの視点からエクササイズとして利用可能かを検討することを目的とした.
【方法】対象は健常成人男性6名とした.年齢(平均±SD)は24.0±2.7歳,身長は172.3±4.4cm,体重は64.4±5.8kg,BMIは21.6±1.2kg/m2であった.
座位姿勢での体幹伸展動作(以下,背伸び運動)は安静座位にて自作の固定器具を用いて両肩関節を上方より固定した状態で行わせた.腹臥位での上体反らし運動に関しても自作の固定器具を用いて第3胸椎レベルを背側より固定した状態で体幹を伸展方向へ最大努力による等尺性運動として実施した.
筋活動の記録には表面筋電図(Personal-EMG,追坂電子機器)を使用した.被験筋は右側の第12胸椎レベルの脊柱起立筋群,第3腰椎レベルの脊柱起立筋群の2筋とした.筋活動の導出には表面電極(blue sensor,Ambu A/S)を用いた.課題動作中の1秒間の積分値(integrated electromyography:IEMG)を求めた.筋間および対象間で比較を行うために,筋活動量を各筋の最大等尺性収縮時の活動量に対する割合(%IEMG)として算出した.最大等尺性収縮の測定は,新徒手筋力検査法のNormalの肢位で3秒間行い,そのうち波形の安定した1秒間から%IEMGを算出した.
統計学的分析は背伸び運動と上体反らし運動における胸椎部および腰椎部の脊柱起立筋群の活動量を対応のあるt検定を用いて比較した.危険率5%未満を有意とした.
【説明と同意】すべての対象は研究代表者から研究について詳しい説明を受け,研究概要,対象の人権擁護,研究によって生じる可能性がある危険因子とその配慮を十分に理解したうえで,自由意思により本研究に参加することを同意した.なお,本研究はサザンクリニック整形外科・内科倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号0901).
【結果】座位での背伸び運動における胸椎部の脊柱起立筋群の活動は64.6±15.5%IEMG(平均±SD),腰椎部の脊柱起立筋群では60.8±15.6%IEMGであった.上体反らし運動の筋活動は同じく胸椎部で84.1±25.1%IEMG,腰椎部で62.9±18.3%IEMGとなった.胸椎部の脊柱起立筋群の活動は腹臥位での上体反らし運動の方が背伸び運動に比べ有意に高かった(p<0.05).腰椎部の脊柱起立筋群の活動は腹臥位での体幹伸展運動と背伸び運動の間に有意な差は認められなかった.
【考察】腰椎部の脊柱起立筋群では両運動共に約60%IEMGの活動を示しており,ほぼ同等量の活動であった.これに対して胸椎部の脊柱起立筋群では背伸び運動のほうが筋活動が低かったが,両者共に60%IEMGを超える筋活動を示した.今回の結果から背伸び運動は胸椎部の筋活動において上体反らし運動と比べて負荷は高くないが,腰椎部では上体反らし運動と同程度の運動負荷が加わることが示された.しかし,等尺性収縮での筋力トレーニングでは,筋力増強のためにはoverloadの原則から最大筋力の40%以上の負荷が必要で,さらに60%以上で効果的なトレーニングが可能といわれている(富士 2003).また,等尺性筋力と筋活動は高い相関を示すとの報告があり(Lippold 1952),背伸び運動は胸椎部,腰椎部の脊柱起立筋群に対して筋力増強の可能性を示したといえる.
今回の研究では健常な若年成人に対して固定具を用いて背伸び運動の筋活動を記録した.円背などの不良姿勢が強く,腹臥位が困難な患者に対して背伸び運動は実施しやすい運動と考える.本研究の結果から筋力トレーニングとして有効な運動方法であることが示唆された.このデータをもとに,高齢者を対象に安全で効果的なエクササイズを提案していきたい.
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,不良姿勢に対する体幹伸展筋力のエクササイズは腹臥位に比べて座位の方が胸椎部の脊柱起立筋群の活動において低い傾向がみられたが,overloadの原則からみて背伸び運動で筋力増強の効果が期待され,エクササイズとしての利用できる可能性が示唆された.

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© 2010 日本理学療法士協会
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