理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-185
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一般演題(ポスター)
理学療法士による介護予防事業への関わり
農村地域に在住する要支援者における1年間の経時変化を身体機能で比較する
原 司加納 利恵野村 正成日比野 至
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抄録
【目的】介護保険制度の発足後、要介護認定者数は年々増加している。要介護度別に認定者数の推移をみると、要支援・要介護度1(以下、軽要介護者)の認定者数の増加がみられ、認定者数全体に対して高い割合を占めている。平成12年から2年後の要介護度の変化について、要支援で48.9%、要介護度1で34.8%が悪化したとの報告があるように、軽要介護者に対するサービスが状態の改善につながっていないなどの課題が指摘されている。そこで、平成18年に介護保険制度が一部改正され予防重視型システムへの転換が図られており、地域包括支援センター(以下、地域包括)を中心とした介護予防事業が展開されている。その地域包括の活動は、個別援助から地域づくりまで多岐にわたっているが、その活動の達成度については、十分ではないのが現状である。介護予防では、生活機能低下の予防、維持・向上を重視しているため、理学療法士(以下、PT)による介護予防事業への積極的な関与が重要であると考える。当施設の介護予防通所介護サービスにおいては、要支援1・2の利用者(以下、要支援者)に対し、常勤のPTが運動器機能向上への取り組みとして、介護予防プログラムと3ヶ月に1回の体力測定を利用者に提供している。今回、1年後の要介護度の変化を把握し、1年後も運動器機能向上サービスを利用されていた要支援者の身体機能の変化を比較検討し、PTにおける介護予防事業への介入効果と今後の活動について考える機会とした。
【方法】調査地域は、岐阜県A地区(平成21年4月現在、人口2,609名、高齢化率は33.4%の山間部・農村地域)である。調査対象は、平成20年8月に当施設の介護予防通所介護サービスを利用されていた要支援者64名(内、要支援1:17名、要支援2:47名)、平均年齢は82.8±7.1歳であった。最初に、対象者の調査開始時とその1年後の要介護度の変化として、維持・改善・悪化・その他(利用中止と死亡)に分けてその割合を調査した。次に、調査開始から1年経過後の要介護度の変化が維持・改善であった対象53名の身体機能の変化について、当施設で用いられている体力測定項目から、左右握力、30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS-30)、長坐位体前屈、Functional Reach test(以下、FR)、左右開眼片足立ち時間、5m通常・最速歩行時間、Timed Up & Go test(以下、TUG)を用い、測定項目ごとに有意水準を5%未満として対応のあるt検定を行った。また、開始時に対する1年後の体力測定結果の割合(以下、変化率)を把握した。
【説明と同意】対象者には、調査の主旨と目的、そして調査実施期間中の要介護度・体力測定値のみを使用するものであり、個人を特定できるものではないことを説明し同意を得た。
【結果】要介護度の変化は、維持が76.6%(49名)、改善が1.6%(1名)、悪化が15.6%(10名)、その他が6.3%(4名)と維持されている者が多い結果となった。その内、1年経過して要支援者だったのは53名であった。その要支援者53名の身体機能の変化においては、有意な差を認めなかった。また、体力測定の各測定項目の変化率は、右握力(95.2±17.0%)、左握力(98.6±23.0%)、CS-30(102.4±33.6%)、長坐位体前屈(111.2±50.1%)、FR(97.2±29.5%)、右開眼片足立ち時間(107.2±82.6%)、左開眼片足立ち時間(129.4±110.4%)、5m通常歩行時間(103.5±21.0%)、5m最速歩行時間(106.0±20.9%)、TUG(107.5±25.9%)と100%前後であった。
【考察】本調査の結果より、要支援者は要介護度・身体機能ともに維持されていることが示唆された。介護保険制度開始時における要介護度悪化の報告や加齢による身体機能低下がいわれる中、PTが関わって要介護度・身体機能が維持されていることは意味のある結果だと考える。しかしながら、どのような頻度や介入手段でそれらの効果をもたらすのかは今後さらなる検討の必要がある。また、要支援者は本来、目的指向型のケアマネジメントであるが、長期利用によりその姿を見失うことも危惧されており、地域での受け皿が乏しいことから閉じこもり防止として今後も新規の軽要介護者が増加することが考えられる。そのために、地域支援事業の推進が必要であると考える。当施設において、介護予防特定高齢者・一般高齢者施策を展開しているが、今後より一層相互の関連性を強め、地域住民・地域包括・行政との連携を深め地域福祉の充実を図っていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は、介護予防事業においてPTの介入効果を示唆するものである。さらなる介護予防事業、そして地域福祉にPTが職域を拡大していくための一つの知見となることを期待する。
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© 2010 日本理学療法士協会
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