理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-226
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一般演題(ポスター)
O脚により靴の摩耗は変化するのか?
堤本 広大三栖 翔吾土井 剛彦山口 良太小松 稔松田 環下田 勲平田 総一郎
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キーワード: 靴形状, 歩行, 内反膝
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抄録

【目的】
靴底は常に地面との摩擦を受けて経年的に摩耗し、その摩耗形状は体重や使用期間によって大きく異なる。靴底の摩耗と歩行について検討した先行研究では、靴底の外側部を摩耗させた靴を履いて歩行すると、膝関節の動揺が有意に大きくなるとされており、靴底の摩耗が歩行中の膝関節の動きに影響することが示唆されている。内反膝、いわゆるO脚を有する人の靴底の摩耗は外側に偏倚しているとshoe fitterや靴職人らの経験に基づき言われている。しかし、これを客観的な指標に基づいて検討した報告はない。そこで本研究では、靴底の摩耗を定量的に評価し、O脚を有する対象者の靴底が、どのような摩耗形状を呈するのかを検討した。

【方法】
対象は、靴販売店に来店した地域在住成人の中で、研究参加への同意を得られた19名のうち、除外対象を除く16名(男性6名、女性10名、平均年齢67.3±6.62歳)とした。対象者より日常着用していた靴を収集し、その靴底の摩耗の程度を判別することが難しかった者を除外対象とした。静止立位にて顆間距離を測定し、4cm以上の5名をO脚群 (男性3名、女性2名、62.8±3.1歳)、4cm以下の11名を非O脚群 (男性3名、女性8名、69.5±6.8歳)とした。収集した靴底の観察および計測を行った。摩耗の計測は、後足部の外側摩耗を肉眼で確認し、摩耗の境界線と靴の長軸がなす角を摩耗角度と定義した。この角度は鋭角なほど外側偏倚していることを表す。摩耗角度をO脚群、非O脚群との2群間で、Wilcoxon-Mann-Whitney 検定を用い比較した。有意水準は5%未満に設定し、統計解析にはJMP8を用いた。

【説明と同意】
本研究は疫学研究に該当すると考えられ、事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し、同意を得た者を対象者とした。また、本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮十分に行った。
【結果】
対象者の左摩耗角度は中央値:55.4°、最小値:33.4°、最大値:84.5°で、右摩耗角度は中央値: 47.7°、最小値: 26.0°、最大値:75.5°であった。左摩耗角度をO脚群と非O脚群で比較するとO脚群は中央値:49.6°、最小値:33.4°、最大値:56.8°で、非O脚群は中央値:59.0°、最小値:40.9°、最大値:84.5°であり、O脚群は非O脚群よりも有意に左摩耗角度が鋭角であること示された(p<0.05)。一方、右摩耗角度についてはO脚群と非O脚群の間に有意な差は認められなかった。また前述したように、全ての靴底踵部において後内側部から前外側部にかけて摩耗の境界線が存在し、少なくとも外側部分は直線を示していた。

【考察】
本研究の結果より、O脚群は非O脚群に比べ、左側のみ摩耗角度が有意に鋭角であった。これはO脚の者は靴底の外側が摩耗しやすいというshoe fitterらの一般的な見解と同様である。この要因として、O脚の者の歩行は正常歩行と比較して、初期接地時のFTAが大きいため、足底外側を基点とした前額面上での足底と地面とのなす角度が大きいことが考えられる。また、O脚により、立脚期には床反力における垂直方向のベクトルは距骨下関節の外側を通り、回内方向のモーメントが発生する。つまり正常歩行時と比較して、足底はより外側から床反力における垂直方向のベクトルを受けており、靴底外側の摩耗に助長している可能性が考えられる。先行研究で示唆されているように靴底の外側の摩耗は、膝関節の動揺性を増大させることを考慮すると、O脚による靴底外側の摩耗が、膝関節の動揺を引き起こす悪循環が発生する可能性がある。しかし、本研究では右摩耗角度は両群で有意な差は確認できなかった。左右差が生じた要因として、下肢のアライメント異常にも左右差があった可能性が考えられる。しかし、顆間距離によるO脚の分類では両側のアライメント異常をもつ者と片側のアライメント異常の者を区別出来ず、本研究の限界と考えられる。

【理学療法学研究としての意義】
先述したように、先行研究で示唆されているように靴底の外側の摩耗は、膝関節の動揺性を増大させる報告がある。これはO脚による靴底外側の摩耗が、膝関節の動揺を引き起こす悪循環が発生する可能性がある。O脚の人に対して靴底の摩耗角度を評価し、適切な靴を推奨することで、その後の膝関節アライメント異常の進行を軽減・改善が可能となることが考えられる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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