理学療法学Supplement
Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-261
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一般演題(ポスター)
頸椎周囲のモビライゼーションによる心拍変動
山本 浩由中冨 香織松本 彬籾井 佑都古賀 麻奈美芳野 千尋田鍋 拓也有吉 雄司甲斐 悟高橋 精一郎
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抄録

【目的】
頚椎へのモビライゼーションは交感神経活動を活性化するとの報告があった。その多くはグレード3を用いている。しかし,交感神経の活性化はリラクセーション効果とは相反する。そこで,健常者を対象に頸椎周囲へのモビライゼーションを行い,心拍変動から交感神経や副交感神経の活動を明らかにする。

【方法】
若年女性12名を対象とした。対象者は背臥位にて10分間安静の後,理学療法士にて頚椎周囲のモビライゼーションを5分間,0.5Hzの周期で施行され,終了後2分間安静を保った。施行中は頭部の挙上が起こらないようにした。全ての期間,対象者に3点誘導心電計電極を貼付し,心拍ゆらぎ解析機器にて記録し,周波数解析した。低周波成分をLF値とし,高周波成分をHF値とした。交感神経活動の指標にはLF値とLF/HF値を用い,副交感神経活動の指標にはHF値を用いた。平均値と標準偏差は各期の1分間のデータを用いた。統計学的分析方法は,各時期での比較を多重比較にて行った。有意水準は5%とした。

【説明と同意】
本研究の目的と方法を口頭及び書面にて説明し,同意を得た。対象者の人権保護や個人情報保護に配慮し,守秘義務を遵守した。

【結果】
1.心拍ゆらぎの変化
安静時,介入後,終了後の平均パワー値は, LF値では648.4±501.4,354.1±340.5,492.3±577.3であり,HF値では971.7±835.3,802.0±886.1,1077.7±1268.9であり,LF/HF値では0.99±0.94,0.64±0.41,0.77±0.80であった。安静時を100%とした時の介入中,終了後の平均LF値は,57.9±33.7,76.9±51.7であった。安静時と介入中の値には統計学的有意差が認められた。同様の平均HF値は,88.3±44.5,112.5±63.2であった。同様の平均LF/HF値は,83.5±56.4,88.5±73.7であった。
2.心拍数の変化
安静時,介入中,終了後の平均心拍数は,62.6±8.1,61.6±7.6,61.3±7.9であった。安静時と介入中の変化の平均は,1.6±1.3回/分であり,安静時と終了後の変化の平均は,2.0±1.4回/分であった。

【考察】
本研究で明らかになったLF値の減少は,心拍数がほとんど変動していないことから,主に末梢血管の拡張作用を誘発した可能性がある。心臓交感神経の遠心路は体幹および四肢の血管を支配する交感神経幹に連絡しており,血管を拡張して心拍出量を増加させる機能がある。血管拡張により動脈圧が低下すると,圧受容器を介して,心臓に対する迷走神経活動を減少させる。その結果,心拍数が高まる。しかし,交感神経活動の減少で血管の拡張が維持されると,心拍出量=1回拍出量×心拍数(心拍出量は,1回拍出量と心拍数の積で求められる。)であるため,心拍数の増加を抑制することができる。今後は頸椎周囲のモビライゼーション刺激がもたらす洞結節への交感神経入力の抑制が血管運動神経機能にどれだけ影響があり,どの程度効果が発揮されるのか検討する必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
本研究結果から頸椎周囲への徒手療法にて自律神経系に影響を与える可能性が示唆され,関節や軟部組織等の改善効果以外に全身調整作用として適応できる可能性がある。これは,内部障害だけでなく,心身の障害にも働きかけることができるアプローチの確立に貢献するものといえる。

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© 2010 日本理学療法士協会
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