理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI1-001
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口述発表(一般)
長期間の高気圧・高濃度酸素環境への暴露が2型糖尿病ラット長指伸筋の組織化学的特性に与える影響
藤田 直人近藤 浩代永友 文子村上 慎一郎藤野 英己石原 昭彦
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キーワード: 高気圧, 高濃度酸素, 糖尿病
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抄録

【目的】糖代謝は主に骨格筋や肝臓において行われている.2型糖尿病の場合,耐糖能の低下とインスリン抵抗性の上昇により骨格筋における糖の取り込みが減少する.インスリン刺激による糖取り込みの75%以上は骨格筋によるものであり,骨格筋でのインスリン感受性の低下は,個体の糖処理に影響する.一方,糖尿病の骨格筋では線維タイプの移行が報告されており,耐糖能の低下やインスリン抵抗性の上昇に大きく関与している.一方,高気圧・高濃度酸素環境へ長期間暴露した足底筋では,酸化系酵素活性が高い遅筋線維の割合が増加すると報告されている.遅筋線維は速筋線維に比べてインスリン感受性が高く,グルコース取り込みが多いことが知られている.長期間の高気圧・高濃度酸素環境への暴露により遅筋線維の割合が増加することは,2型糖尿病患者における糖代謝改善につながると考えられる.本研究では,長期間の高気圧・高濃度酸素環境への暴露による骨格筋の組織化学的変化を糖尿病モデルラットの速筋を用いて検証した.また,酸化的リン酸化反応に関与するコハク酸脱水素酵素(SDH)活性やグルコースの取り込みに関与するとされる骨格筋内毛細血管密度の変化も併せて検証した.

【方法】インスリン抵抗性の高い2型糖尿病モデル動物として生後5週齢のOLETF雄ラットを用い,そのコントロールには同一週齢のLETO雄ラットを用いた.全てのOLETFラットおよびLETOラットは,通常飼育群と高気圧・高濃度酸素環境へ暴露する群に分けた.高気圧・高濃度酸素環境へ暴露するラットは1.25気圧で酸素濃度を36%に維持した酸素カプセル(動物実験用 Medical O2)に毎日3時間暴露した.22週間の暴露期間終了後に長指伸筋を摘出し,未固定の凍結横断切片を作製し,ATPase染色(pH 4.25)とSDH染色を行い,筋線維タイプ別のSDH酵素活性を測定した.また,アルカリフォスファターゼ染色を行い,筋線維あたりの毛細血管数を算出した.統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い,有意水準は5%未満とした.

【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得た上で実施した.

【結果】全ての筋線維タイプにおいて,OLETFラットのSDH酵素活性はLETOラットよりも低値を示した.また,高気圧・高濃度酸素環境に暴露したOLETFラットとLETOラットのSDH酵素活性は,全ての筋線維タイプにおいて,通常飼育群よりも高値を示した.OLETFラットにおける筋線維あたりの毛細血管数は,LETOラットよりも高値を示した.また,OLETFラット,LETOラットともに,高気圧・高濃度酸素環境暴露による筋線維あたりの毛細血管数の変化は認めなかった.

【考察】2型糖尿病モデル動物であるOLETFラット長指伸筋の全筋線維タイプにおいてSDH酵素活性が低下したが,高気圧・高濃度酸素環境への暴露によって抑制された.先行研究では,高気圧・高濃度酸素環境への暴露は,2型糖尿病モデル動物の成長に伴う血糖値上昇と高インスリン血症を予防したと報告されており,本研究で確認された長指伸筋における遅筋線維割合の増加や酸化系酵素活性値の上昇は糖代謝機能改善に関与した可能性があり,2型糖尿病に対する高気圧・高濃度酸素処方の有効性が示唆された.また,骨格筋内毛細血管密度の変化に関して,OLETFラットはLETOラットに比べて筋線維あたりの毛細血管数の増加を認めた.先行研究において,2型糖尿病の初期過程では狭小毛細血管数が増加するとされており,今回のOLETFラットにおける毛細血管数の増加はこれに相当するものと思われる.本研究では,長指伸筋内の毛細血管に対する高気圧・高濃度酸素による顕著な変化は認められなかったが,アルカリフォスファターゼ染色では毛細血管の狭小化の様な微細な構造変化を検出し難いため,高気圧・高濃度酸素が2型糖尿病の骨格筋内毛細血管に及ぼす効果を検証するには,新たな測定方法の必要性が示唆された.本研究で用いた高気圧・高濃度酸素処方による長指伸筋における酸化系酵素活性値の上昇は,遅筋線維割合の増加によるインスリン受容体とGLUT4の発現量を変化させている可能性があり,更なる検証が必要である.

【理学療法学研究としての意義】高気圧・高濃度酸素処方は,運動耐容能が低下した虚弱高齢者等においても安全かつ効果的に実施可能であり,2型糖尿病患者に対する理学療法の治療手段を増やすことは意義があると考える.

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© 2011 日本理学療法士協会
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