理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-002
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口述発表(一般)
発声と腹横筋機能の関連性
円唇母音発声による腹横筋エクササイズの有効性
布施 陽子福井 勉矢崎 高明
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抄録

【目的】我々は従来の研究を参考に、第43回日本理学療法学術大会にて、超音波診断装置による腹横筋厚の測定方法を検討し、十分な信頼性を得た。また第44,45回日本理学療法学術大会において、ストレッチポール使用による腹横筋エクササイズが有効であることを示した。しかし、ストレッチポールを使用したエクササイズは、ある程度のバランス機能を必要とし、自主的にトレーニングとして行うまでに時間を要する事が多い。そこで今回、特別な道具を用いない日常的に行っている声を出す、という観点から発声が腹横筋エクササイズとして有効か否かを調べた。今回、発声と腹横筋はどのような関連を持つか、またどのような発声がより腹横筋機能に作用するのか検討したので報告する。
【方法】対象は健常成人男性11名、女性5名の計16名(32.0±9.96歳)、計測機器は超音波診断装置(日立メディコEUB-8500)、デジタル騒音計(日本スリービー・サイエンティフィック株式会社U11801)を用い、操作に慣れた1名を検者とした。計測肢位は、立位(両上肢はそれぞれ反対側の肩に手をのせ、両股関節が内外転0度となる状態)とし、被験者の口元からデジタル騒音計が30cm (音声言語における病理学的評価で用いられている距離) 離れた場所に位置するよう設定した。被験者には、a,i,u,e,oの5つの母音をそれぞれの口の形状を強調しつつ、5秒間発声するよう指示した。また発声の音量は、デジタル騒音計の数値が75~80dBとなるように十分な練習を行った上で計測した。安静呼気終末と各母音発声3秒後の6条件を腹部超音波画像にて記録した。計測部位は、上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と平行な直線上で、肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。第43回日本理学療法学術大会で報告した方法を採用し、独自に作製したプローブ固定器を使用して、毎回同じ位置で腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまでプローブを押しあてた際の画像を記録した。記録した超音波静止画像上の腹横筋厚は、筋膜の境界線を基準に0.1mm単位で左右それぞれについて計測した。統計処理はSPSS ver18を使用し、それぞれ安静呼気終末,a,i,u,e,o発声時による腹横筋厚の違いについて、一元配置分散分析および多重比較法(Bonferroniの方法)により有意水準1%で検討した。
【説明と同意】本実験にあたり、東京北社会保険病院生命倫理委員会の承諾を得て行った。また、被験者には、腹横筋評価とエクササイズをより詳細に確立する事を目的とすること、実験方法については上記と同様の説明をし、同意書による承諾を得た上で行った。
【結果】1. 安静呼気終末,a,i,u,e,o発声時による腹横筋厚に違いを認めた(p<0.01)。 2.u発声時の腹横筋厚は、安静呼気終末,a,i,e発声時の腹横筋厚より大きかった(p<0.01)。 3.o発声時の腹横筋厚は、安静呼気終末,a,i,e発声時の腹横筋厚より大きかった(p<0.01)。 4.u発声時の腹横筋厚と、o発声時の腹横筋厚の違いは、認められなかった(p>0.05)。
【考察】母音(a,i,u,e,o)は、顎を適切な位置に挙上させ、舌のボリュームと位置の変化によって、口蓋と舌の間の共鳴腔の容積を変える事により作られた音色であり、唇の丸みの程度によって、円唇母音(u,o),非円唇母音(a,i,e)に分けられている。円唇母音(u,o)は、口輪筋の活動を認め、その唇の形状により非円唇母音よりも口腔内圧が高まると考えられる。また円唇母音(u,o)は舌の形を考慮した場合、さらに奥舌狭母音(u)と奥舌半広母音(o)に分けられる。結果2,3では、uとoを発声した際に、より腹横筋厚が大きくなることが示された。結果1,2,3により、発声は口腔内圧,腹腔内圧の調整が必要となることに加え、円唇母音であるu,oを選択的に発声することで、腹横筋エクササイズとしてより有効である可能性が示唆された。また結果4により舌の形状よりも唇の形状が、腹横筋機能により重要な要素であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本実験により、発声による腹腔内圧上昇が、腹横筋収縮を得られるという結果に加え、口輪筋を使用する円唇母音の使用が腹横筋を効率的にエクササイズできる可能性を示唆した。これは、ダイナミックな関節運動を伴わず行えるエクササイズとして、ベッドサイドでの理学療法の適応を広げたと考えられる。また、特別な道具を使用せず、自宅で手軽に行えるという観点からも自主トレーニングとして有効であると考えている。

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© 2011 日本理学療法士協会
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