理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-013
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口述発表(一般)
体重支持に必要な膝伸展筋力水準
高齢入院患者における検討
加嶋 憲作山﨑 裕司
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抄録

【目的】
歩行は立脚相と遊脚相の連鎖によって成立する.左右の下肢が交互に支点となるため,安定した片側への重心移動および下肢での体重支持が必要不可欠である.歩行と下肢筋力には密接な関連があり,歩行自立に最低限必要な筋力閾値が存在する.しかし,重心移動および下肢での体重支持が,どの程度の筋力で障害されるかについては明らかになっていない.そこで本研究では,片側下肢での体重支持に必要な等尺性膝伸展筋力について検討した.

【方法】
対象は,高齢入院患者129例(男性76例・女性53例)で,年齢は75.9±7.0歳,身長は156.2±7.2cm,体重は50.0±9.6kgである.中枢神経疾患や明らかな荷重関節の整形外科疾患,認知症を有する者は対象から除外した.等尺性膝伸展筋力の測定にはアニマ社製μ-TasF-01を用い,端坐位下腿下垂位において約3秒間の最大努力による膝伸展運動を行わせた.各脚2回の測定のうち大きい値を採用し,左右脚の平均値(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)とした.下肢荷重率の測定は,市販の体重計2枚に左右の脚をのせた立位で行った.片側下肢に最大限体重を偏位させるように指示し,5秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を下肢荷重率(%)とした.どの程度の下肢筋力低下が一側下肢への体重支持に影響を及ぼすかを検討するために,等尺性膝伸展筋力を0.2kgf/kg未満,0.2~0.3kgf/kg未満,0.3~0.4kgf/kg未満,0.4~0.5kgf/kg未満,0.5~0.6kgf/kg未満,0.6kgf/kg以上に区分した.先行研究では,独歩自立には最低でも約80%の下肢荷重率が必要であり,90%以上あれば全症例で独歩自立が可能と報告されている.そこで,各筋力区分別に80%,90%の下肢荷重率を上回る症例の割合を算出した.統計学的解析にはχ2検定を用い,危険率5%を有意水準とした.

【説明と同意】
対象者には,研究の内容と目的を説明し,同意を得た後に測定を実施した.

【結果】
等尺性膝伸展筋力区分別にみた下肢荷重率80%以上例の占める割合は,0.2kgf/kg未満では0%(0例/11例),0.2~0.3kgf/kg未満では61.1%(22例/36例),0.3~0.4kgf/kg未満では81.5%(22例/27例),0.4~0.5kgf/kg未満では92.9%(26例/28例),0.5~0.6kgf/kg未満では100%(17例/17例),0.6kgf/kg以上では100%(10例/10例)であった.筋力の上昇に伴って80%以上の下肢荷重率を有する症例の割合は有意に高値を示した(p<0.01).同様に,下肢荷重率90%以上例の占める割合は,0.2kgf/kg未満では0%(0例/11例),0.2~0.3kgf/kg未満では8.3%(3例/36例),0.3~0.4kgf/kg未満では48.1%(13例/27例),0.4~0.5kgf/kg未満では60.7%(17例/28例),0.5~0.6kgf/kg未満では76.5%(13例/17例),0.6kgf/kg以上では80%(8例/10例)であった.筋力の上昇に伴って90%以上の下肢荷重率を有する症例の割合は有意に高値を示した(p<0.01).

【考察】
0.2kgf/kg未満では80%以上の下肢荷重率を有する症例はなかった.よって,この筋力水準を下回る場合,実用的な下肢支持性を得ることは困難なものと考えられた.一方,0.4kgf/kgを上回る場合,ほとんどの症例が80%以上の下肢荷重率を有した.また,7割の症例は90%以上の下肢荷重率を有した.したがって,実用的な下肢支持性を得るには0.4kgf/kg以上の筋力が必要なものと考えられた.いくつかの先行研究は,等尺性膝伸展筋力が0.4kgf/kgを下回ると歩行自立例が減少しはじめ,0.2kgf/kgを下回った場合,連続歩行例がなくなることを指摘している.これらのデータは本研究結果と類似しており,筋力低下による歩行能力低下の主要因として,片側下肢での体重支持の困難性が存在するものと推測された.0.6kgf/kg以上の筋力を要しても,90%以上の下肢荷重が困難な症例が少数見られた.この原因としては,下肢支持性というよりも平衡機能の関与が強いものと推察された.今回は0.6kgf/kg以上の症例数が少ないため,今後,症例数を増やした上で他の平衡機能評価を併用して再検討する必要がある.

【理学療法学研究としての意義】
体重支持に必要な下肢筋力水準が明らかとなったことで,歩行能力低下の原因について,より客観性をもった専門的な分析が可能となる.

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© 2011 日本理学療法士協会
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