理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-014
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口述発表(一般)
表示機能付き角速度センサを用いた歩行中の下肢角度測定
予備的検討
塩見 耕平田中 直樹飯塚 陽内藤 幾愛山口 普己金森 毅繁斉藤 秀之奥野 純子柳 久子長澤 俊郎小関 迪
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抄録

【目的】医療現場における動作分析は主観的に行われることが多く,異常の程度を示すことが困難である.動作の定量的測定には,ビデオカメラや3次元動作解析装置を用いる方法がある.しかしこれら方法では解析や機器装着に労力を要すこと,高価であること,可搬性が低いことなどから,日常の臨床で用いられることは少ない.そこで本研究の目的は,表示機能を備えた角速度センサを,即時的,簡便,定量的な測定機器として使用し,臨床場面で歩行動作分析に容易に活用することと,その測定の信頼性を検討することとした.
【方法】被検者は健康成人男性10名(平均年齢24.9±2.4歳)とした.測定機器は表示機能付き角速度センサ(SS-30001,シリコンセンシングシステムズジャパン社製)1台,デジタルビデオカメラ(HDR-SR11,Sony社製)1台を使用し,それぞれの機器で平地歩行中の大腿および下腿の角度を測定した.角速度センサの検出範囲は角速度±300°/秒,角度±999°,センサ部と表示部が5mのコードで接続した1軸角速度センサを用いた.角速度センサの表示部は角速度もしくは角度の現在値,時計回り(CW)最高値,反時計回り(CCW)最高値を表示可能である.センサ部の取り付けは左下肢とし,位置は大腿測定時が大転子と外側上顆の中間点,下腿測定時が腓骨頭と外果の中間点とした.表示部には角度を表示し,デジタルビデオカメラの撮影範囲のうち被検者と重ならない位置に提示した.デジタルビデオカメラは毎秒30フレームのプログレッシブ画像を記録する設定とし,矢状面での歩行を撮影するため床面から高さ0.9mの位置に歩行の進行方向と垂直となるよう歩行路から4m離れた位置に設置した.身体部位の同定のため左大転子,左外側上顆,左腓骨頭,左外果の計4箇所にマーカーを貼付した.歩行開始直前に直立不動位で角速度センサのキャリブレーションを行った後,被検者に床面のビニールテープの方向へ快適速度で歩くよう指示を与えた.歩行開始から歩行停止までビデオカメラの撮影範囲内となるよう実施した.大腿部測定,下腿部測定の2条件を,1試行ずつ測定し,全試行において左下肢がカメラの手前側になるよう撮影した.デジタルビデオカメラのデータは動画編集ソフトにて1秒30フレームの静止画に変換し,歩行開始前と測定部位角度が最大の静止画を抽出した.次に画像編集ソフトを用いて,マーカーを結んだ線と床面上のビニールテープの角度から,各試行における下肢角度の最高値を求めた.角速度センサの測定は,9名の測定者(経験年数2~6年の療法士8名,理学療法学科学生1名)に動画を見せ,動画上の角速度センサ表示部からCW,CCW角度の最高値を読み取り,紙に記入させた.測定の順はランダムとし,1試行につき3回ずつ測定させた.統計学的解析は級内相関係数(ICC)を用いて角速度センサの測定者内・測定者間信頼性を検討し,Pearsonの積率相関係数を用いて角速度センサの測定値と画像解析測定値の測定値との関係を検討した.有意水準は0.05とした.
【説明と同意】
本研究は実験内容に関して十分な説明を行い,同意の得られた者を対象として実施した.
【結果】
測定部位別の平均値(静止画測定値,角速度センサ測定値)は,大腿部CWが26.1±4.7°,28.7±6.1°,CCWが8.9±2.8°,8.8±2.1°,下腿部CWが21.0±5.1°,25.2±3.1°,CCWが53.2±4.9°,47.3±6.1°であった.角速度センサ測定値の測定者内信頼性は,最も低値であった測定者のICCが大腿部CW1.00,大腿部CCW0.993,下腿部CW0.998,下腿CCW0.823となった.9名の測定者間におけるICCは大腿部CW1.000,大腿部CCW1.000,下腿CW0.999,下腿CCW0.998となった.静止画測定値と角速度センサ測定値との相関係数は,大腿部CW0.660(p<0.05),大腿部CCW0.822(p<0.01),下腿部CW0.269(有意差なし),下腿部CCW0.812(p<0.01)となった.
【考察】
本研究により,表示機能付き角速度センサを用いた下肢角度測定において,測定値読み取りの信頼性が高いことは示唆されたが,ビデオカメラ動画の画像解析による測定値との相関において,下腿部CWでは有意差を認めなかった.その理由として,角速度センサ側ではドリフトの影響,静止画側ではビデオカメラレンズの歪曲収差,画像編集ソフトなどによる測定誤差の影響が考えられた.
【理学療法学研究としての意義】
角速度センサは床反力計,3次元動作解析装置等に比べて可搬性が高く,安価な点から,測定方法を確立することで定量的な動作分析の普及が期待される.

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© 2011 日本理学療法士協会
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