理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: OI2-016
会議情報

口述発表(一般)
注意機能および二重課題バランス能力の定量的評価システムの検討
タッチパネルとバランスWiiボードを用いたTrail Making Test
久保田 一誠
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
高齢者において,歩行は獲得しているにも関わらず,急な方向転換や身の回りのADL動作を行う際,極端に転倒リスクが高まることを臨床上経験する.高齢者の場合,支持基底面内の安定性限界狭小化によって動的バランス能力が低下することに加え,あらゆる環境に適用するための注意機能低下が関与すると言われている.近年,二重課題(dual-task)下でのパフォーマンス能力低下が注目されており,転倒リスク軽減のためには,身体機能面としての動的バランス能力だけでなく,注意機能も伴った複合的な能力の獲得が必要となってくる.しかし,こういった二重課題下での能力を定量的に評価する方法はほとんど確立されていない.
今回,注意機能評価方法の一つであるTrail Making Test Part A(TMT-A)を紙面上ではなく,パーソナルコンピューター(PC)のディスプレイ上で行えるオリジナルソフトウェアを作成した.さらに,その制御を市販のタッチパネルディスプレイとバランスWiiボードを用いて行えるように改変した.タッチパネルは,PCによるマウス操作が不慣れな高齢者にも使用可能であると考えられる.また,バランスWiiボードは,動的バランス能力に必要な支持基底面内の安定性限界を向上させる効果が期待されている.このシステムにより,注意機能および二重課題バランス能力について,定量的な評価が行えるかどうかを検討した.
【方法】
対象は,健常者12名(男性8名,女性4名)とした.対象の年齢は26.6±3.9歳であった.
[1]注意機能の計測には,I・O DATA社製10.1型タッチパネルディスプレイ(LCD-USB10XB-T)を使用した.また,[2]二重課題バランス能力の計測には,Nintendo社製バランスWiiボードを使用した.測定は,[1]→[2]の順番で行った.[1][2]間では別の課題を行ってもらい,1~25の位置を記憶できないように配慮した.また,合計タイムだけでなく,1~25間のラップタイムも記録した.
さらに,[1]と紙面上で行う通常のTMT-Aをそれぞれ2回実施し,検者内再現性および測定誤差を求めた.2回目の測定は別の日に行った.統計解析は,フリーウェアR2.8.1を使用した.検者内再現性は,Pearson積率相関係数(r)と級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC)を求めた.測定誤差は,測定標準誤差(Standard Error of Measurement:SEM)と最小検知変化(Minimal Detectable Change:MDC)を算出した.
【説明と同意】
対象者全員に対し,本研究について十分な説明を行い,同意を得た.
【結果】
[1][2]いずれの測定においても,検者一人で安全に実施可能であった.また,計測時間は1被検者あたり2~3分程度で実施可能であった.[1]タッチパネルでの計測結果は,13.64±1.93秒であり,ラップタイムの平均は,0.57±0.20秒であった.[2]バランスWiiボードでの計測結果は,47.56±8.44秒であり,ラップタイムの平均は,1.98±0.59秒であった.
2回目の[1]タッチパネルでの計測結果は,13.25±1.94秒であった.検者内再現性は,r=0.71(p<0.01),ICC(1,2)=0.83であった.測定誤差は,SEM=1.09秒,MDC=3.03秒であった.一方,通常のTMT-Aの計測結果は,1回目20.34±3.34秒であり,2回目17.40±3.15秒であった.検者内再現性は,r<0.50(p>0.05),ICC(1,2)<0.50であった.測定誤差は,SEM=3.67秒,MDC=10.17秒であった.
【考察】
[1]の測定結果では,検者内再現性は0.7以上であり,測定誤差は1.09秒と平均値の10%以下であった.このことから,優れた再現性と測定精度を有していると考えられる.一方,[2]の測定結果では,健常者を対象にした場合においてもばらつきがみられた.ラップタイムの標準偏差は,[1][2]いずれも1.00秒以内であり,どの方向に対しても極端な差はみられなかった.今回の結果を基準として,今後患者層に適用し照らし合わせることで,その症例がどの方向への注意が向きにくいか,または,どの方向への重心移動が困難かを詳細に推定可能になると考えられる.
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,歩行時の急な方向転換や身の回りのADL動作などでの転倒リスクを回避するために必要となる二重課題下での能力について,定量的な評価を実現するための一助になると考えられる.

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top