理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-005
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ポスター発表(一般)
道具使用・パントマイム・道具の把持部を用いたパントマイムにおける脳内機構の検討
機能的近赤外線分光装置(fNIRS)を用いて
若田 哲史森岡 周
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抄録

【目的】
左頭頂葉損傷における失行症では、道具使用は可能だがパントマイム動作は障害されるという報告がある(Hermsdorfer et al,2006)。またGoldenberg(2004)、Hermsdorfer(2006)は、道具の把持部を用いたパントマイムにおいても運動が障害されると報告している。これについて脳機能イメージングを用いた報告はみられず、従来のパントマイム・道具使用の脳機能イメージング研究は臥位での拘束性の高い環境で行われている。本研究は機能的近赤外線分光装置(functional near-infared spectroscopy:fNIRS)を用いてパントマイム・把持部の使用・道具の使用を行った際の脳活動について明らかにすることを目的とした。

【方法】
整形外科的・精神医学的な既往のない右利き健常成人8名(男性5名、女性3名、平均年齢±標準偏差:28.3±2.38)が実験に参加した。課題は椅子座位の対象者に閉眼を求めた後、音声・効果音に従いスクリーンに提示されたクロスマークを観察しながら課題を行う方法を用いた。課題は条件1から条件4で構成され、条件1はパントマイム動作、条件2は道具の把持部を用いたパントマイム動作、条件3は道具使用動作、条件4は上肢の単純屈伸動作とした。各条件は12セットのプロトコルの中でランダムに3回提示した。タイミングプロトコルは前安静10秒―準備10秒―課題20秒―後安静10秒とし、課題は道具を変え3回実施した。脳血流量の測定には(株)島津製作所製近赤外分光装置(fNIRS、FOIRE-3000)を用い、酸素化ヘモグロビン(oxyHb)値を抽出した。抽出したoxyHb値は個人差をなくすためにa.u.処理(Harada et al,2009)を行った。光ファイバフォルダは前頭葉と頭頂葉を覆った。統計処理は課題開始5秒前の準備状態、課題時におけるa.u.値を算出し、要因1を道具使用に関係した脳の関心領域、要因2を条件1~4とし、半球ごとに二元配置分散分析を用いて比較を行った。また、事後検定として各要因のa.u.値をBonferroni法により比較した。

【説明と同意】
本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認を受け、研究実施の際には参加者に対し研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施した。

【結果】
準備状態では1~4条件において前頭前野・下頭頂領域のa,u,値が増加傾向であり、二元配置分散分析の結果、両半球の関心領域間に有意差が認められた(p<0.05)。事後検定では、左半球では条件1において前頭前野と下前頭領域に、条件3において前頭前野と下前頭領域・下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認め、右半球では条件1において前頭前野と下前頭領域に、条件3において前頭前野と前頭領域に有意なa.u.値の差を認めた(p<0.05)。
課題時では1・3・4条件において前頭前野・下前頭領域のa.u.値が増加傾向であり、条件2において左下前頭領域のa.u.値の減少がみられた。二元配置分散分析の結果、左半球では関心領域間と条件間において有意差が認められ、右半球では関心領域間に有意差が認められた(p<0.05)。事後検定では、左半球では条件1において前頭前野と下頭頂領域に、条件3において下前頭領域と下頭頂領域に、条件4において下前頭領域と前頭前野・下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認め、右半球では条件1において下前頭領域と下頭頂領域に、条件3において前頭領域・前頭前野と下頭頂領域に有意なa.u.値の差を認めた(p<0.05)。

【考察】
本研究は従来の脳機能イメージング研究の結果とは異なり、自由度の高い環境での課題が脳活動に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、把持部使用条件を除き準備状態で下頭頂領域が、課題時に下前頭領域が活動しており、運動の準備状態における下頭頂葉の関与、運動実行における下前頭領域の関与が考えられた。
全条件における前頭前野の活動は、音声による課題提示、タイミングプロトコル設定によるワーキングメモリーの関与が考えられた。
パントマイムは、道具概念情報を身体動作へと変換する創造的な課題であり、把持部使用条件における下前頭領域の活動の減少については、把持部分は道具の使用動作の表出には不十分であることが考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
自由度の高い状態でのパントマイム、道具使用を行ったときの脳活動を明らかにした。また、道具の把持部分を用いたパントマイムは道具使用動作ともパントマイム動作とも脳活動が異なる事が示された。本研究は、失行症の治療における基礎的データとして有用であり、今後の理学療法研究の発展につながると考えている。

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© 2011 日本理学療法士協会
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