理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-007
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ポスター発表(一般)
老化および運動習慣が神経栄養因子・シナプス受容体発現に与える影響
老化促進モデルマウスを用いた検討
前島 洋國西 遼濱崎 歩大谷 拓哉黒瀬 智之出家 正隆
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キーワード: 神経栄養因子, 老化, 運動
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抄録

【目的】急速な超高齢化社会を迎える今日、高齢者における健康促進、退行性機能障害の抑制を目的とする運動習慣の育成が地域において盛んに行われている。高齢者におけるウォーキングを始めとする低負荷運動が神経系の退行抑制に働く一つの科学的論拠として、運動により惹起される神経栄養因子の発現が注目されている。神経栄養因子の一つであるBrain derived neurotrophic factor(BDNF)は、in vitro実験において脳に発現するシナプス受容体であるグルタミン酸作用性NMDA受容体や骨格筋に発現するシナプス受容体であるアセチルコリン受容体(AchR)に対して機能修飾してシナプス活性を促進する。BDNFもまた運動による発現増強が報告されているが、老化による各器官における発現修飾に関する知見は乏しい。そこで、本研究では、運動発現において直接的に動員される大脳皮質運動野および骨格筋において、老化および運動がBDNFおよび主要シナプス受容体の発現に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】雄性老化促進モデルマウス20匹を用いた。老齢群として35週齢マウスを運動群と対象群に区分し、成体群として10週齢マウスを同様に区分し、計4群を設けた。1日40分の低負荷トレッドミル走行(6.4m/分)を4週間行い、介入後、大脳皮質運動野およびヒラメ筋を採取、破砕してサンプルとした。各サンプルに対して逆転写反応を行い、cDNAを作成の後、リアルタイムPCR法を用いた定量的PCR法によりターゲット遺伝子のmRNA発現を定量した。ターゲットとして、BDNFに加えて、大脳皮質運動野においてはNMDA受容体のNR2A, NR2Bサブユニットを、筋においてはアセチルコリン受容体βサブユニット(AchRβ)の発現を計測した。2元配置分散分析法により老化および運動の効果について検定を行った。
【説明と同意】本研究はヒトを対象としない動物実験であり、広島大学動物実験委員会の承認のもとで行われた。
【結果】大脳皮質運動野において、BDNFは老化により僅かではあるが、有意に発現の減少が認められた。同様に老化によるNR2AおよびNR2Bの有意な発現減少が認められた。大脳皮質運動野における運動による効果は認められなかった。一方、ヒラメ筋においては、老化によりBDNFは劇的に発現が増強し、運動によっても有意な発現増強が認められた。その結果、ヒラメ筋において運動によって惹起されるBDNF発現増強は老齢マウスにおいて顕著であった。また、AchRβ発現も老化により有意に増強が認められた。
【考察】老化により中枢運動野においてはBDNF発現が抑制される一方、末梢ヒラメ筋では劇的な発現増強が認められた。それぞれのシナプス受容体についてもBDNF発現と同様に老化による発現修飾が認められた。このことは、老化によるBDNF発現への修飾は器官により異なることを示すとともに、骨格筋での老化によるBDNF発現増強は、末梢器官における老化由来の退行進行に対する抑制的意義を持つことが推察された。特に高齢骨格筋において運動により惹起されるBDNF発現の増強が顕著であったことからも、低負荷運動の習慣が特に高齢者の神経・筋システムの維持・保護に有効であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】今日、障害からの回復を目的とする理学療法に対して、予防を目的とする理学療法的視点の重要性が唱えられている。本研究の成果は高齢者における予防的運動療法の有効性に関する科学的エビデンスとして貢献することができる。

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© 2011 日本理学療法士協会
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