理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-009
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ポスター発表(一般)
圧中心の逆応答特性と筋力の関係から見た高齢者の後方ステップ動作特性
竹内 弥彦三和 真人
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抄録

【目的】
高齢者の転倒を内的要因から考えるとき、補償的なバランス反応であるステッピング動作に着目する意義は大きい。特に、加齢に伴う姿勢変化により質量中心(Center of mass; COM)が後方にシフトしやすいことなどから、転倒方向として報告の多い、後側方へのステッピング動作が重要と思われる。ステッピング時に見られる、COM制御としての圧中心(Center of pressure; COP)の側方変位は予測的姿勢制御と位置づけられ、その自動化されたメカニズムは、COMを支持脚側へ移動するための生体力学的な効果を生じている。本研究では、随意的な後方ステップ動作時のCOP逆応答現象に着目し、加齢の影響と体幹・下肢筋力との関連を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は後方へのステップ動作が可能な千葉県在住の高齢者11名(平均年齢76.1±7.3歳)と対照群として健常若年者10名(平均年齢22.1±2.8歳)を選定した。
被験者は左右分離型荷重計(Anima G6100)上で両足部をそれぞれ別の荷重計に位置させ、上肢を胸郭前方で組んだ立位姿勢を保持した。続いて、検者の合図で後方向へCOMを最大限移動し、片脚を後方へステップする動作を課した。動作時の左右方向のCOP位置変化からCOP逆応答現象を見出し、荷重計による鉛直方向床反力値からステップ足部の離地点と第4腰椎部に取付けた加速度計の鉛直方向成分波形から同側足部の接地点を定義した。さらに、COPのステップ足への側方移動を逆応答現象(Reverse reaction phenomenon; RRP)と定義し、COPが最大に側方移動した距離をRRP-max、側方移動開始点からRRP-maxまでの時間をRRP-time、RRP-max点から支持足への最大側方移動距離をCOP-ML(Medio-Lateral)、ステップ足が離地してから接地するまでの時間をstepping-time (ST)と定義して計測した。なお、RRP-maxとCOP-MLは各被験者の足幅で正規化(%足幅)した。床反力、COP、加速度データはサンプリング周波数200Hzで計測し、加速度データのAD変換器への取込時に荷重計からの同期信号を取込んだ。また、徒手筋力計(HOGGAN HELTH INDUSTRY MICROFET)を用いて、被験者の筋力(体幹屈筋群、股屈曲・伸展筋群、股外転・内転筋群、膝屈曲・伸展筋群、足背屈・底屈筋群、内がえし・外がえし筋群、足趾屈筋群)を測定し、各被験者の体重で正規化(%体重)した。
統計処理は、RRP-max、RRP-time、COP-ML、STについて、高齢群と若年群の差をWeltchのt検定を用いて検討した。さらに、Pearsonの積率相関係数を用いて、RRP-max、RRP-time、COP-ML、ST間、さらに各筋力との相関関係を分析した。
【説明と同意】
全ての被験者には、実験の趣旨を口頭および書面を用いて説明し、同意文書に自筆の署名をいただいた。
【結果】
COPの逆応答特性における高齢群と若年群の比較では、RRP-maxにおいて高齢群13.8±10.3%、若年群6.3±2.0%で高齢群が有意に高値を示した(p<0.05)。その他の特性では、両群で有意な差は認めなかった。高齢群における逆応答特性間、および筋力との相関分析では、RRP-maxとCOP-ML間で有意な正の相関関係を認め (r=0.77, p<0.01)、RRP-timeとCOP-ML間で有意な負の相関関係を認めた(r=-0.64, p<0.05)。また、STと膝伸展筋力との間に有意な負の相関関係を認めた(r=0.60, p<0.05)。
【考察】
高齢群における逆応答特性間の相関分析で、RRP-max、RRP-timeとCOP-ML間に有意な相関関係を認めたことから、予測的姿勢制御として先行するCOPのステップ足への側方移動量およびその移動時間が、その後の支持足側へのCOP移動量に影響することを示唆している。さらに、RRP-maxにおいて、若年群に比して高齢群で有意に高値を示したことから、高齢群ではCOMの支持足側への移動の力学的要因であるステップ足へのCOP移動量を、より大きくする必要があることが示唆される。
高齢群でSTと膝伸展筋力との間に有意な負の相関関係を認めたことに関して、STは片脚立位姿勢でのCOM後方移動を制御する区間であるため、膝関節へ加わる屈曲モーメントを制動する膝伸展筋力がSTの短縮に関与することが示唆された。転倒予防からみたステッピング動作においては、いかに速く、新しい支持基底面であるステップ足を接地、制動できるかが重要となるため、今後、支持脚の膝伸展筋機能の関与について、筋電図などを用い、さらに調査していく必要があろう。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で得た、後方へのステップ動作における加齢の影響やステップ時間に関与する筋力の知見は、介護予防事業に参入している理学療法士が立案する転倒予防プログラムの内容を、より科学的根拠に基づいたものとするための基礎データとして活用可能と考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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