理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-010
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ポスター発表(一般)
末期膝OA症例における下腿運動の歩行特性についての報告
龍嶋 裕二萩原 礼紀高橋 龍介
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抄録

【目的】
健常者の歩行を対象とした我々の先行研究では,歩行相における立脚中期-立脚終期の区間時間と足関節底背屈運動に有意な相関を認めた.今回末期変形性膝関節症(以下KOA)の歩行を測定し,歩行動作中の各歩行相の膝関節屈伸角度及び足関節底背屈角度について定量解析し,特徴を把握することを目的とした.
【方法】
対象は当院入院中のTKA施行予定の末期KOA症例38名(男性4名,女性34名)平均年齢71歳±9.4歳とし,横浜市大分類における変形性膝関節症進行度分類(以下OAGrade)4にて独歩可能者を対象とした.JOAスコアは50点(±10),ROMは膝関節屈曲110度(±15),伸展-15度(±10),NRSは6点(±1.8)であった.課題は,10mの直線歩行路上における自由歩行とした.測定前に複数回の試行を実施し,動作を習熟させた.被験者の下肢体表面上に左右の上前腸骨棘,大転子,腓骨小頭,外果,踵骨隆起,第5中足骨頭に直径25mmの赤外線反射標点を貼付し実施した.測定課題において実施中の標点位置を三次元動作解析装置(ライブラリー社製)により撮影し,サンプリング周波数は120Hzとした.計測した1歩行周期を画像データから各歩行相(以下踵接地HS,足底接地FF,立脚中期MS,踵離地HO,足底離地TO)に分類し,正規化し,加算平均を算出した.各歩行相における区間時間,膝関節屈伸角度,足関節底背屈角度を求めた.またPearsonの積率相関係数を用いて各歩行相内での各区間時間と足関節底背運動との相関係数を求めた.有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】
当院の倫理委員会の許可を得た上で本研究における概要を書面にて説明し,協力を要請し,同意を得た.
【結果】
1歩行周期は1.2±0.18秒となり,各歩行相における区間時間では,右HS-FF0.09±0.01秒,FF-MS0.2±0.03秒,MS-HO0.2±0.03秒,HO-TO0.2±0.03秒,TO-HS0.48±0.07秒であり,左側も同様な傾向を示した.各歩行相における膝関節屈伸角度は右HS13.9±7度,FF18.9±6.7度,MS20.2±11.3度,HO16.7±8.9度,TO26.9±8.9度であり,左側も同様な傾向を示した.足関節底背屈角度においては底屈をプラス,背屈をマイナスと表記し右HS2±7.4度,FF0.9±4.9度,MS9.6±5.5度,HO13.4±6.8度,TO1.6±10.3度となった.膝関節と同様に足関節にても左側は同様な結果であった.各歩行相における区間時間変動と足関節底背屈角度の相関係数は各歩行相全てにおいて有意相関は認められず,右HS-FFはr=-0.04,FF-MSはr=-0.2,MS-HOはr=0.38,HO-TOはr=0.46,TO-HSはr=0.08であり,左側も同様に有意な相関は認められなかった.
【考察】
文献では,KOAの初期接地から荷重応答期までに膝屈曲がほとんど生じないとされているが,結果より本研究の歩行周期中の膝関節屈伸角度では,左右共に初期接地から立脚中期にかけて,屈曲角度が増加する傾向を示した.これは対象がOAGrade4であり,主動作筋と拮抗筋を同時収縮させ膝屈曲位にて関節剛性を高めることで関節不安定性に適応させていることが要因として考えられた.また足関節底背屈運動は,HO-TO相において左右共に底屈位から背屈位に移行する関節運動を示した.我々の先行研究で,HO-TO相を詳細に観察した際に足関節は背屈位から底屈位まで直線的に一定方向の運動様式を取っており,時間変化と角度は有意な相関を認めた.しかしKOA群でのHO-TO相では,一様の運動ではなくHO-TO相を通じ,瞬時で微細な足関節底背屈運動が繰り返し生じており,時間変化と角度の相関が認められない結果となった.これらは,KOA群が関節構成機構の破綻及び疼痛により,円滑な荷重移動が障害され,加齢による神経系の低下と相乗し,運動制御の困難な状態として観測されたためと考えられた.
【理学療法学としての意義】
KOAの状態を把握するために歩行特性を解明していくことは重要であり,歩行動作時の視点を把握することが臨床での治療の一助になると考えた.

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© 2011 日本理学療法士協会
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