理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI1-014
会議情報

ポスター発表(一般)
教育に用いられる計測用フットスイッチの機器特性の検討
帯刀 隆之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】養成教育において運動学はカリキュラム全体における基幹科目となる.中でも正常歩行の学習は,理学療法の評価や技術論にとっても確実に理解を図りたい単元である.座学による歩行分析のための用語や歩行メカニズムの学習とともに,実際の歩行についての観察や計測などの演習や実習もまた,学習を促進するために欠かすことはできない.正常歩行を学びはじめる初学習者にとって,歩行相を区分しその名称を言えることは最初のくぐらなければならない知識の関門である.これを実感のある知識とするためには計測実習が役立つ.歩行相区分を目の当たりにするにはフットスイッチを用いた計測が優れている.それは機器としても簡便であり,計測構成システムとしても直観的で理解しやすいからである.ところが,機器としては単純であり材料も安価なものであるためか,製品として入手しようとしても逆に手に入れにくい機器となっていることを経験した.これを機に健常者の自然歩行計測のためのフットスイッチを特別注文で製作した.そこで本研究の目的は,歩行相解釈の教育活動の一助とするために,床反力計と比較した本フットスイッチのもつ機器特性を知ることにある.
【方法】対象は健常女子13名であった.フットスイッチはフロンティアメディック社製OKFOOT-SWITCH-S1-H22-05で1つの電源から2個のスイッチを配し,3Vと2Vの矩形出力信号が取得可能であった.スイッチのサイズは長さ45mm,幅10mm,厚み3mmであった.2個のスイッチは,右片足に対し長軸を前額面に平行に足底球前端部(以下,つま先スイッチ)と踵部後端部(以下,踵スイッチ)にそれぞれ両面接着テープにて貼付した.スイッチからの出力信号は,床反力計からの信号とともにA/Dボードを介してPCに取り込み解析した.歩行計測は,中央に2基の床反力計を配置した6mの歩行路で8試行を行わせた.歩行条件は自然歩行と速い歩行の各4試行とした.検討した変数は,初期接地として鉛直床反力がはじめて正の値をとったフレームから踵スイッチがオンとなったフレームまでの時間,立脚相終了点となる鉛直床反力がゼロとなったフレームからつま先スイッチはオン・踵スイッチがオフ(つまりHeel Rise)となったフレームまでの時間,同じく鉛直床反力による立脚相終了点からつま先スイッチもオフ(つまりToe Off)となったフレームまでの時間をいずれも鉛直床反力の立脚相フレーム時間を百分率で正規化した(ただし,1フレーム=1/60秒とする).また他に,足関節点の進行方向速度から求めた最大振り出し速度,スイッチがオンとなる荷重量(力)の観測された最小値を取得した.各データに被験者内での特徴的な変動は見られなかったために反復試行の各平均値を被験者の代表値とした.変数間の分析にはPearson積率相関分析を5%の有意水準で行った.
【説明と同意】被験者には調査内容を説明し書面にて参加同意署名を得た.
【結果】床反力計と比較したフットスイッチのタイミングは,初期接地の平均と標準偏差が+7%±3.8%,Heel Riseが同じく-8%±3.2%,Toe Offが+14%±8.7%であった.歩行時の最大振り出し速度の平均と標準偏差は4.1m/s±0.4m/sであった.また,スイッチの観測最小負荷量は10.0Nであった.相関分析では,Heel RiseのタイミングとToe Offタイミングとの間に見かけ上の相関があるようにみえた(r=0.564,p=0.045)が,体重の影響を考慮した偏相関係数では有意な関係(rxy・z=0.568,p=0.054)は認められなかった.
【考察】本フットスイッチの信号出力タイミングは床反力計による立脚時間を100%としたとき,初期接地は約7%遅れたタイミングでみられ,Heel Riseは床反力による立脚終了時間からみて約8%早期に,そしてToe Offはそれより約14%遅れたタイミングでみられることが分かった.スイッチに,ある負荷が加わった際にはじめて出力信号が発せられる構造であるから,本結果はうなずけるものである.しかしながら,スイッチ信号によるToe Offタイミングが床反力計により知る立脚相終了タイミングより,約14%も遅延することは興味深い.Gotz-Neumann(2005)による「Pre-Swingではすでに荷重はされておらず,単に遊脚の準備をしているだけ」という解釈を裏付けるものであると思われた.
【理学療法学研究としての意義】「歩行の運動学」の学習に供される現象を捉える際,計測機器の特性やそれによる正常歩行の特徴点となる歩行相の見え方が異なってくることを理解することは重要である.

著者関連情報
© 2011 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top