理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PI2-161
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ポスター発表(一般)
慢性炎症性脱髄性多発神経炎患者における理学療法介入に対し握力測定を用いた試みについて
日野 真林 邦男下稲葉 主一大野 雅治
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抄録

【目的】
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(以下 CIDP)は、慢性進行性あるいは再発性に末梢神経の散在性脱髄が生じ、筋力低下あるいは感覚障害を示す免疫性神経疾患である。2002年に神経免疫疾患治療ガイドライン委員会によるCIDP治療ガイドライン(案)の中で、理学療法は、“治療による運動障害の改善が、必ずしも早期に期待できないため、廃用性筋力低下や関節拘縮を予防する立場から、発症初期からの可動域訓練は必要である”と記述されている。石倉は残存機能の維持や改善には神経内科的治療とリハビリテーションの両輪が必要であるとしており、小鷹はCIDPにおけるケア上の留意点として羅病期間が長期にわたるため、関節可動域維持や残存筋力維持に対する予防の観点からも理学療法介入は重要であると述べている。
しかし、その不均一な病因が災いし、残存機能活用や残存筋力増強に対する報告は散見されるが、運動負荷量については“疲労が残らない程度”とする内容であり、具体的な臨床検討は我々が知る限りではない。そこで、我々は問診による自覚的聴取に加え、全身筋力と相関が高い握力の回復段階を指標として、運動負荷量の調整および基本動作練習をプログラムし、シングルケースからその臨床的有用性を検討した。
【方法】
臨床的にAd Hocの診断基準を満たしCIDPと診断された症例に対し、当院入院時リハビリテーション科紹介後から当院退院までの経過を記録した。
【説明と同意】
症例には研究の目的と内容を十分に説明し、書面による同意を得た。
【結果】
60代男性。左中指に最初のしびれを自覚してからの2年間に、両側上肢にしびれが拡大、両側足関節以下のしびれを自覚した。発症s2年半後から階段やしゃがみ動作ができなくなり、以後急速に脱力と感覚障害が進行したため、当院受診後、CIDP疑いにて他院紹介入院となった。
他院でステロイドパルス療法実施後、歩行可能となり継続治療目的に当院転院したが、徐々に運動感覚障害が進行し、再度ステロイドパルス療法実施した。その後は筋力回復とともに基本動作能力の改善傾向をたどり、ステロイドパルス療法5日後に杖歩行、14日後に独歩、18日後に屋外歩行と基本動作能力が改善していった。握力は、ステロイドパルス療法最終日に13.9kgだった握力は5日後19.6kg、14日後24.0kgと回復を認めた。
理学療法では、毎回の治療前に握力測定を行い、ストレッチ、レジスタンストレーニング、持久力トレーニングを自覚症状と握力から併せて運動プログラムの調整を行った。また、筋力の回復段階において代償的基本動作を認めたため、その予防としての動作要領指導を併せて行った。
副腎皮質ステロイド30mgまで漸減したところで外来通院となった。
【考察】
CIDPにおける経過ならび予後は多様であり、完全回復するものから再発・進行により重度の神経症状から四肢の運動感覚障害を中心とした症状を呈するとされる。高安らはCIDPにおけるリハビリテーションは、神経内科療法における治療効果をよりあげるために、早期より積極的なADL改善を図ることは重要であるとし、石倉は同じCIDPであっても障害像は様々で、症例に適したリハビリテーションを行わないと逆に運動機能が低下することもあると述べている。そのため、神経内科治療による回復段階を把握することは重要となる。
今回、我々は毎回の理学療法介入前に問診に加え、握力を測定することで実測値データを参考にトレーニングの負荷量を調整した。その結果、今まで“疲労が残らない程度”といった患者主観だけに頼ることなく運動負荷量や運動内容を調整することが可能であった。また、回復段階で生じてきた代償的基本動作に対しても、握力回復を示している段階では動作要領を指導し、身体機能の障害予防に対応することが可能であった。
ガイドラインではCIDPやギラン・バレー症候群は、神経疾患の中でも治療法の有効性に関する多くの報告が示されてきたが、理学療法に関しての記述は乏しく、臨床検討も報告が少ないのが現状である。今回はシングルケースでの検討であったが、握力は簡便に測定することができ、その結果は基本動作における回復予測も可能であったことから有効な手段であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
神経内科的治療における反応を確認するために、問診以外にも随意動作や基本動作の確認が必要となる。しかし、理学療法介入前に握力を測定することで、運動障害の日々の経過を実数として見ることが可能となり、医師との伝達において基本動作能力に加え、具体的な値を報告ができるため、神経筋疾患における良好な指標となると考えられた。

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© 2011 日本理学療法士協会
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