抄録
【目的】
後十字靭帯切除型人工膝関節(PS TKA)は後十字靭帯の機能を代償するポスト-カム機構を有する。しかしこの機構が仇となり過剰なコンポーネントの過伸展によってポスト前方接触を発生することが知られている。実際われわれは膝過伸展によって再置換術を余儀なくされた症例を経験し,第45回の本学会にて報告した。
当院で使用しているStryker社Scorpio NRG PSはin vitroにおいてコンポーネント過伸展15度を許容することが判っているが,in vivoにおける検証はなされていない。本研究の目的はin vivoにおける過伸展許容範囲は15度を下回るという仮設のもと,歩行立脚相でのコンポーネント過伸展とポスト前方接触の関係を明らかにすることである。
【方法】
ポスト前方接触を評価するために,我々は荷重下透視撮影と2 D/3Dパターンマッチング法を用いた。2D/3Dパターンマッチング法とは,透視撮影によって得られた2次元投影像の輪郭を抽出し,これを事前に作成しておいたコンピュータ内の人工膝関節CADモデルの輪郭形状データと比較・対照することで人工膝関節の3次元の位置・姿勢を推定するものである。その精度は投影面に平行な動きでは角度0.5度,距離0.5mm以内である。
対象は変形性膝関節症のためNRG PSを使用してTKAを施行し,術後X線でコンポーネント過伸展10度以上を認めた60歳代と70歳代の女性2症例とした。まず荷重下透視撮影像を得るために歩行立脚相のTKA膝の透視撮影を外科用X線テレビシステムOPESCOPE ACTIVO(島津製作所)を用いて行った。術側下肢の踵接地の姿勢を開始肢位とし,非術側下肢をゆっくりと前方に振り出し,非術側下肢接地後十分な荷重がなされた状態を最終肢位とした。開始肢位から最終肢位までのTKA膝の動態を側面から撮影し録画した。次に録画した歩行立脚期透視像のうち任意の5シーンを抜き出し,パターンマッチング法にてコンポーネントの伸展角度および過伸展によって接触する部分の距離(ポスト-大腿骨コンポーネント間距離)を求めた。ポスト-大腿骨コンポーネント間距離は10回計測を実施した。
【説明と同意】
研究にあたりヘルシンキ宣言に基づき被験者には研究内容を書面にて説明し同意を得た。
【結果】
開始肢位から最終肢位までの立脚相5シーンにおけるコンポーネント伸展角度およびポスト‐大腿骨コンポーネント間距離は,ケース1においてシーン1で9.8度および3.57±0.02mm,シーン2で10.5度および3.24±0.01mm,シーン3で9.5度および3.25±0.01mm,シーン4で11.3度および3.05±0.01mm,シーン5で8.0度および2.67±0.01mmであった。過伸展の最大値は11.3度であった。ケース2ではシーン1で17.2度および3.07±0.01mm,シーン2で15.2度および2.64±0.01mm,シーン3で13.2度および2.50±0.01mm,シーン4で11.9度および3.52±0.01mm,シーン5で4.8度および2.11±0.01mmであった。ケース2の過伸展最大値は17.2度であった。2例ともポスト前縁‐大腿骨コンポーネント間距離が最小となったのは立脚後期であるシーン5で,ポストと大腿骨コンポーネントの接触は認められなかった。
【考察】
我々は過度の膝過伸展が原因で再置換を余儀なくされた症例を経験した。抜去されたインサートはポスト前方が摩耗していた。このようなトラブルを回避するためにはポスト前方接触を生じさせないことが重要であるが,過伸展の許容範囲に関する研究はほとんどない。
ポスト前方接触に影響を及ぼす因子はコンポーネントの過伸展だけでなく脛骨前方変位も考えられる。TKA膝は前十字靭帯を切除したいわゆる前十字靭帯不全膝であり,我々はin vivoにおいては脛骨前方変位のため過伸展15度を許容しないのではないかと考えた。仮説に反し本研究では17.2度の過伸展でも前方接触を生じていないことが確認できた。しかしながら,脛骨前方変位には個人差があると考えられるため今回の結果からは十分な結論を得ることはできない。今後さらに症例数を増やして検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
PS TKAにおいてコンポーネントの過伸展はポスト前方接触を招き脛骨インサートの磨耗や破損の原因となるため,TKA後の理学療法において注意すべき点である。しかし過伸展許容角度に関する報告はほとんどなく,当院で使用しているNRG PSの研究は皆無である。本研究はin vivoにおけるNRG PSの過伸展許容角度について検討した初めての研究で,意義あるデータを示した。