理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: PF1-048
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ポスター発表(特別・フレッシュセッション)
農作業時の動作と腰痛に関する研究
高氏 涼太河野 奈美
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キーワード: 腰痛, 農業, 腰痛予防
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抄録

【目的】
人類が二足歩行を行うようになった時から、腰痛は逃れることの出来なくなった健康障害の1つであり、多くの現代人がこの腰痛に悩まされている。平成19年の有訴者率において腰痛は最も高い症状であり、日常生活や労働を行う上で問題となるため、腰痛予防を行うことは重大な課題となる。厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を策定し、作業環境を含め作業姿勢や重労働者のコルセット使用、作業前体操等推進しているものの、農作業に携わる場合の腰痛予防は十分行われているとは言えない状況である。今回、農業を行っている人を対象とし、農作業時に生じる腰痛動作を明らかにし、農作業時の腰痛予防策を検討したので報告する。

【方法】
対象は、福井県JA全国農業協同組合連合会に依頼し同意が得られた職員および、兼業農家とし、選択式および記述式調査票を配布し後日回収した。調査項目は、年齢、性別、身長、体重、腰痛経験の有無、ここ1年間の腰痛の有無、農作業時の腰痛状況、また、生活状況を把握するために生活様式や食事について質問した。統計処理はSPSS 15.0J for Windowsを用い腰痛と各要因との関係についてχ2検定を用いて行った。

【説明と同意】
福井県JA全国農業協同組合連合会および、兼業農家に依頼し、本研究の目的と調査内容を説明し同意を得た。

【結果】
調査票を配布した70名中、記入漏れのない53名(有効回答率76.8%)、男性38名、女性15名、平均年齢49.5歳(23~73歳)であった。腰痛経験ありと回答した人は53人中44人となり男性32名、女性12名、平均年齢49.5歳(30~73歳)、腰痛経験率83.0%であった。さらに、ここ1年間の腰痛率は75.0%で、男性71.9%、女性83.3%と男女差はみられなかった。主な生活場所は和室88.0%、洋室12.0%、就寝場所は布団74.0%、ベッド26.0%と和式生活が多かったが、食事する場所は、76.0%が椅子と回答した。食事は3食取っていると回答した人は82.0%で、1週間に3.9回魚や肉を摂取していた。生活状況や食事と腰痛経験の有無との関係について有意差はみられなかった。
腰痛発症状況は、急性腰痛症などで急激に痛みを呈した8名、急性腰痛症を経験していなくとも徐々に痛くなった22名は、腰痛の頻度に関係なく我慢できる痛みと回答していた。腰痛が生じる環境は屋外での作業71.0%と多く、寒い時に腰痛が出ると回答した人は50.0%であった。農作業で初めて腰痛が生じた動作は前屈や中腰姿勢で13名、重量物の取り扱い動作で6名であった。腰痛経験者の農作業の内容として、水田35.0%、畑作24.0%、林業16.0%であった。

【考察】
今回の調査結果から、腰痛経験の有無と生活状況と食事との関係について有意差が見られなかったため、農作業時の動作が主な原因と考えられる。農作業による腰痛率は約83.0%と高く、従来言われている前屈や中腰といった姿勢、重量物の取り扱い動作などによるものがほとんどであった。さらに、軽トラックに乗るときに腰痛を生じていることが明らかとなった。これは、普通の車に比べ、乗車空間が狭く、乗車時に体幹の回旋動作が要求され腰への負担が大きくなることで腰痛が発症すると考えられることから、乗車時の腰への負担の少ない動作指導も必要と考える。
農作業動作では、水田において田植えと稲刈りの時期に腰痛があると回答した人が多くみられた。田植えでは特にうせという作業、収穫期では稲刈り、米袋を運ぶという作業において腰痛が生じていた。畑作では、肥料運びといった種付けの時期や、収穫時で腰痛が生じると多く回答していた。林業では、傾斜での動作・作業時に腰痛を生じると回答した人が多く見られた。農作業時の姿勢は、作業環境を変えることの出来ない状況であることや腰部への負担が継続的にかかるため、同一姿勢での作業は1時間以内にしたり、休憩をしたりする指導は必要と考えられる。しかし、一般的な腰痛予防対策では不十分であり、今後さらなる調査を実施し、腰痛と農作業関連動作について詳細に検討していく予定である。

【理学療法学研究としての意義】
農作業時の腰痛予防に対し、理学療法士が地域に積極的に参加して指導することが望ましいが、現状では十分に行われていない。本研究によって、腰痛が生じる農作業時期や内容が一部明らかとなったことで、今後、農作業者の腰痛に対する指導内容のヒントとなるものと考える。

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© 2011 日本理学療法士協会
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