理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-04
会議情報

ポスター発表
顎関節症患者における頭頸部および上部体幹アライメントの特徴
瓜谷 大輔川上 哲司井上 智裕桐田 忠昭
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに、目的】顎関節症は顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする、筋骨格系の疾患群とされている。多因子性に発症する顎関節症の一因として、頭頸部や上部体幹における不良姿勢との関係が指摘されているが、一方で一致した見解は得られていない。その一因として、先行研究で主に使用されている、写真を用いた姿勢評価の信頼性に問題があることが指摘されている。そこで本研究では超音波3次元動作解析装置を用いて、顎関節症患者の頭頸部および上部体幹アライメントの特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は日本顎関節学会専門医によって顎関節症と診断された21名(患者群、男性3名、女性18名、平均年齢35.3±13.2歳)と顎関節症を有さないと診断された19名(対照群、男性5名、女性14名、平均年齢25.2±5.9歳)であった。頸椎および顎関節に対する手術歴がある者および60歳以上の者は除外した。頭頸部および上部体幹アライメントの評価項目は、耳珠と第7頸椎棘突起を結んだ線と水平面のなす角度(以下、頸部前傾角度)、第7頸椎棘突起と肩峰角を結んだ線と水平面のなす角度(以下、肩峰前突角度)、耳珠と眼裂外側端を結んだ線と水平面のなす角度(以下、頭部傾斜角度)、肩甲骨下角と肩峰角を結んだ線と水平面のなす角度(以下、肩甲骨上方回旋角度)、両側肩峰角を結んだ距離に対する第7頸椎棘突起と両側耳珠を結んだ距離の平均値の比(以下、頸部長肩幅比)とした。各評価項目の測定値は、耳珠、眼裂外側端、第7頸椎棘突起、肩峰角、肩甲骨下角を触診によって同定したのち、超音波3次元動作解析装置(CMS20S、Zebris社製)を用いて座標化し、座標化した各ランドマークから動作解析ソフト(WinSpine Pointer、Zebris社製)を用いて算出した。頸部長肩幅比以外はすべて左右両側の平均値を測定値とした。また最大開口量を専用の測定ゲージで測定した。測定肢位は被験者に前方を注視し上肢を体側に下垂させ、股関節および膝関節は約90度屈曲位でリラックスした状態での安静座位とした。統計学的解析は、両群の男女比をカイ二乗検定で、各評価項目の測定値を対応のないt検定で2群間の比較をした。統計ソフトはIBM SPSS statistics version20を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は畿央大学ならびに奈良県立医科大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には事前に研究内容について説明し、書面によって研究参加の同意を得た。【結果】患者群と対照群の男女比に有意差はみられなかった。患者群の顎関節症の症型の内訳は日本顎関節学会による症型分類で1型が8名、3型が13名であった。年齢は患者群が対照群よりも有意に高齢であった。頸部前傾角度において患者群が50.9±5.9度、対照群が59.4±7.0度で患者群が有意に低値を示した。また最大開口量は患者群が44.1±9.8mm、対照群が52.0±6.2mmで患者群が有意に低値を示した。その他の評価項目には2群間での有意差は認められなかった。【考察】今回対象とした患者群では咀嚼筋症状を主症状とする1型と関節円板障害を主症状とする3型であった。測定結果からは患者群は対照群よりも頭部前方位姿勢が著明であった。顎関節症は多因子性に発症するとされているが、今回の研究からは病型に関わらず、体幹に対する頭部の位置が顎関節症の発症に影響する一因子であることが示唆された。先行研究では頭部前方位姿勢によって上顎に対する下顎のアライメントが変化することや、咀嚼筋の筋活動が亢進することなどが報告されている。これらのことが体幹に対して頭部が不適切なアライメントを取ることで生じ、顎関節への機械的ストレスとなって症状を誘発するもとと考えられた。ただし今回の対象者は頸椎の退行変性の姿勢への影響を考慮して60歳以上の者を対象から除外したものの、患者群が対照群よりも高齢であった。よって今後は年齢や体格、性別などの影響も考慮して、多変量解析等による調査も行う予定である。【理学療法学研究としての意義】日本ではいまだ顎関節症患者に対して理学療法が介入することは少ない。しかし顎関節症患者の不良姿勢に対するアプローチは理学療法の専門性を発揮できる機会である。顎関節症患者の姿勢についての特徴を明らかにしておくことは、効果的な理学療法評価や治療を効率的に実施し、顎関節症に対する理学療法の有用性を広く世に示すために重要である。

著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top