理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-01
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一般口述発表
健忘型の軽度認知機能障害を有する高齢者の記憶機能と身体活動量の関連
谷川 貴則武地 一山田 実西口 周荒井 秀典青山 朋樹
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抄録

【はじめに、目的】 軽度認知機能障害の高齢者はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)へ移行するリスクが高く、特に記憶機能が低下した健忘型ではより高確率で移行すると報告されている。また近年、身体活動量の増加が認知機能の低下を抑制する可能性に注目されている。さらに身体活動量の低下に伴い運動機能が低下することは多く報告されている。よって健忘型の認知機能障害を有する者にとって身体活動の維持は重要であるが、初期に低下する記憶機能に焦点を当てて身体活動量との関連を調査した研究はされておらず、各々の運動機能レベルも考慮されていない。そこで本研究は、健忘型の軽度認知機能障害高齢者を運動機能レベルで層別化し、記憶機能と身体活動量の関連を検討することを目的とした。【方法】 対象は京都大学附属病院のもの忘れ外来に通院している軽度ADまたは健忘型軽度認知機能障害(amnestic mild cognitive impairment: aMCI)と診断を受けている高齢者53名(77.8±7.0歳)とした。対象者には、歩数計を配布し、2週間の歩数の記録から身体活動量の指標として1日の平均歩数を算出した。運動機能指標として10m歩行時間、TUG、片脚立位を用いた。さらに、記憶機能指標としてscenery picture memory test (SPMT)を用いた。除外基準はMMSEが19点以下の者、重度の心疾患、肺疾患または筋骨格系疾患パーキンソン病や脳卒中のような転倒リスクを伴う合併症を有する者とした。運動機能の高低の層別化は、10m歩行時間が10秒未満と10秒以上の2群とした。統計解析は、従属変数としてSPMTを、独立変数として基本属性と平均歩数、上記の各運動機能指標を投入し、両群において重回帰分析(ステップワイズ法)を実施し、身体活動量と独立して関連する項目を調査した。なお、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受けて実施した。対象者全員に対して書面にて研究の目的及び内容を十分に説明して同意を得た。【結果】 運動機能の高い群は26名、低い群は27名であった。重回帰分析の結果、運動機能が高い群においては有意な関連要因は抽出されなかった。一方、運動機能が低い群において、平均歩数、TUG、性別が抽出され、平均歩数が多く(β=0.455、p=0.009)、TUGが速く(β=-0.343、p=0.041)、性別が女性であること(β=0.334、p=0.047)がSPMT高値に関連していた。【考察】 本研究の結果より、特に運動機能の低下したaMCI高齢者において、記憶機能と身体活動量が強く関連することがわかった。aMCI高齢者において、身体活動量を増加させることが認知機能低下を抑制するという見解は十分には示されていない。本研究の結果は、aMCI高齢者が身体活動量を増加させることでaMCIの特徴である記憶機能低下を抑制し、認知症進行を予防できる可能性を示唆するものだと考える。今後、縦断的な介入研究を行い、身体活動と記憶機能の関係性を検証することで、認知症予防に対する新たな非薬物療法のエビデンスを構築していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 従来の医療現場においては運動機能と認知機能は個別に評価されてきた。しかしながら近年の研究結果から両者の関連を示すものは数多く報告されている。これは理学療法においても両者に対して介入する必要性を示唆しており、本研究の結果はそれを支持する結果となった。

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© 2013 日本理学療法士協会
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