理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 0518
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Internal focus of attentionとKnowledge of performanceによる運動学習方略がFunctional Reach動作および距離に及ぼす影響
菊地 康平境 侑亮佐々木 良輔高橋 拓斗渡部 祥輝
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キーワード: 運動学習, IFA, KP
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抄録

【目的】理学療法において,運動学習を促しパフォーマンスを向上させる方法の1つに言語指示がある。その方法には運動前にこれから行う動作において意識すべき点を伝える方法や,運動後に動作の修正点を伝える方法がある。前者には身体内部に意識を向けるInternal focus of attention(以下IFA)と外部環境に意識を向けるExternal focus of attentionがあり,後者にはどのような運動であったかを伝えるKnowledge of performance(以下KP)と運動の結果を伝えるKnowledge of resultが存在する。これらのうちIFAとKPには身体内部に意識を向ける性質がある。鈴木らは運動初心者に対してこれらを与えることでパフォーマンスの向上がみられたと報告している。一方で,wulfは身体内部に意識を向けると自動制御過程を妨害し運動学習が阻害されパフォーマンスが低下すると報告している。このように,身体内部に向けた言語指示の運動学習効果は不明な状況である。そこで我々は身体内部に意識を向ける学習方略と言語指示をしない学習法略を比較することで,どちらの方略が運動学習に効果的であるのか明確にすることを目的に研究を行った。【方法】対象はFunctional reach(以下FR)に対する知識の無い健常若年成人26名(19.42±2.4歳,男:14名,女:12名)とした。言語指示を行わない群(以下非介入群:14名),IFAとKPを与える群(以下IFA+KP群:12名)に無作為に割りつけた。本研究の運動課題はFRとし,踵を床から離さずに,可能な限り手を遠くに伸ばすことを求めた。測定項目はFR最大距離と,藤澤らの肩関節,股関節,足関節におけるFR最適姿勢からの角度誤差とした。実験手順は,事前に全対象に対しpre test(以下pre)を実施し,その後FR動作練習を1日10回,4日間連続で行った。その翌日にpost test(以下post)を実施した。IFA+KP群に対しては毎日FR動作練習開始直前に言語教示によるIFAを1回行い,FR動作練習5回に1回,計2回KPを行った。IFAは1.腕を耳より高くあげてください。2.股関節を曲げ,深くお辞儀をするようにしてください。3.お尻を後ろに引かないでください,の3項目とした。また,KPは肩関節,股関節,足関節におけるFR最適姿勢からの角度誤差情報を付与した。統計学的解析は,FR距離及び,肩関節・股関節・足関節の最適姿勢からの誤差について,時期(pre/post)および,群(非介入群/IFA+KP群)による効果を反復測定二元配置分散分析にて比較した。多重比較にはBonferroni法を用い,統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮】全ての対象者に対し事前に本研究の目的及び内容を十分に説明し,全員から書面にて同意を得た。【結果】肩関節の最適姿勢からの誤差は時期および群に主効果が認められたが(時期:p<0.05,群:p<0.05),交互作用は認められなかった。多重比較の結果,postにおいて非介入群と比較して,IFA+KP群で有意な改善がみられた(31.1±8.6度vs 19.3±11.1度)。また,両群ともpreに対してpostで有意な改善がみられた(非介入群:pre:40.5±12.8度vs post:31.07±8.6度,IFA+KP群:pre:36.1±12.7度vs post:19.3±11.1度)。FR距離は時期および群に主効果が認められたが(時期:p<0.05,群:p<0.05),交互作用は認められなかった。多重比較の結果,FR距離はpostにおいてIFA+KP群と比較して非介入群で有意な向上がみられた(92±8.3cm vs 102±5.9cm)。また,非介入群において,preに対してpostで有意な向上がみられた(pre:94±8.5cm vs post:102±5.9cm)。【考察】本研究の結果,FRの肩関節における姿勢変化では,時期の比較で両群ともに有意な改善があった。また,群の比較ではIFA+KP群は,非介入群と比較して有意な改善があった。野田らは身体に意識を向けた際,コントロールが容易なのは上肢であると報告している。本研究におけるIFAとKPによる言語指示は身体内部に意識を向ける性質があり,KPは最適姿勢との関節角度誤差を用いたため,コントロールが容易な肩関節に意識が向き,有意な改善がみられた可能性がある。FR距離は時期の比較において,言語指示を行わなかった非介入群で有意な向上があった。この結果は,IFAとKPを組み合わせた言語指示はパフォーマンスの即時的な向上を促す可能性があるとの鈴木らの報告と逆の結果となった。その理由は,今回KPの情報として用いたFR最適姿勢が本研究における対象の最大パフォーマンスを発揮する関節角度と一致していなかった可能性がある。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,フォームの修正など,四肢の細かい調整が必要な場合は,IFAとKPの組み合わせによる言語指示の効果が示唆された。一方で,パフォーマンスの向上におけるIFAやKPによる言語指示は,対象が最大パフォーマンスを発揮できる情報と一致させる必要性が示唆された。

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© 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
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